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 利奈はあ然と、まるで呼吸をするのも忘れたみたいに突っ立っている。

「優也は……、殺されたわけではなかったのね……、十文字くんに……」

「ああ、たぶん。優也に訊かなきゃ、どこまで正解なのかはわからないけどな」

「正解よ。納得だわ。だってぴったりと辻褄つじつまが合うもの。それに、びっくりもしているわ。まさかこのXを刻んだのが優也だったなんて……。とんだ悪戯坊主いたずらぼうず。最後の最後になんてことをしでかしてくれたのかしら。あの世に請求書を送りたいくらいだわ」
 
 困った顔をしながらも、利奈は優しく微笑んでいる。

「このキズはやっぱり『十文字』じゃない。『X』だったんだ」

「認めるわ。十文字くんは無罪。名探偵の名推理に脱帽よ。けど思うの。ひょっとして優也も、この騒動を、十文字くんのせいにしようとしていたんじゃないかしら?」

「それはない」
 
 利奈の問いかけを、俺はきっぱりと否定した。

「どうしてそこまで強く言えるの?」
 
 利奈は真顔で首をかしげる。


 
 左の胸がズキリと痛んだ。

「どういうこと?」

「それは優也が、あそこに隠したものを見つければわかる」
 
 俺は軽くアゴをしゃくって、天井を示した。

「あなたにはそれがわかっているのね?」

「ああ。あそこにはが隠してあるはずなんだ」

「え? ま、まさか、優也が十文字くんを……?」
 
 利奈は一瞬、口元を引きつらせた。

「とぼけないでくれ」
 
 ゆるく首を振りながら俺はいった。

……」
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