もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那

文字の大きさ
49 / 92
第5章 〈レッスン2〉 アフタヌーン・キス

10

しおりを挟む
「ここでパーティーなんて、映画とかドラマそのものです……ね」

 今度はごまかしきれなかった。
 つい、固い声でそう言い、表情を曇らせてしまったわたしに気づいて、玲伊さんは静かに問いかけてくる。


「ねえ、どうしてなんだ。楽しく過ごしているときに限って、優ちゃんはときどき、たまらなく寂しそうな顔をする」
「ごめんなさい」
「謝ることはない」
 そう言って、彼はゆっくり首を振る。

「玲伊さん……」
「ただね、その寂しさの正体を突き止めたくなるんだよ、いつも」

 それは……
 玲伊さんが優しすぎるから。

 そう告げたら、彼はどんな顔をするんだろう。

 玲伊さんに優しくしてもらうと、この上なく嬉しい。
 でも、同時に身が引き割かれそうになるほど、つらくなる。

 自分が彼の〈妹ポジション〉にしか、居られないことが。


「なんでもないです。ごめんなさい。玲伊さんがせっかくご褒美を用意してくれたのに」

「だから、謝るなって」
 
 玲伊さんは手を伸ばし、わたしの頬にそっと触れた。
「優ちゃんの寂しそうな顔を見るたびにたまらない気持ちになる。そして、どうしてもその傷を癒してあげたくなるんだ」

「そんなに……優しくしないでください」
 眼の縁に涙がたまってきて、すっと頬を流れ落ちた。

 もう限界だった。
 玲伊さんを好きになりすぎた。
 
「優ちゃん……」

「すみません。今日は……もう帰ります。ごちそうさまでした」
 わたしは席を立って、出口に向かった。

 すると彼もすばやく席を立った。
 後ろからわたしの腕をつかんで引き寄せ、そのまま強い力で抱きしめてきた。

 その瞬間、玲伊さんのコロンの香りに包まれた。
 その香り、彼の体温、何もかもに惑わされ、そして耐えられないほどつらくなる。

 身をよじって、わたしは言った。

「言いましたよね。ハグは嫌だって」
 
 玲伊さんは何も言わない。
 わたしを抱きしめたまま、離してくれない。

「離して……」
 さらに体をよじって無理やり離れると、彼はわたしの肩をつかんで引き寄せた。

「玲伊さん、離してってば」
「そんな顔、するなって」

 そう呟いた次の瞬間、玲伊さんはわたしの後頭部に手を添えて、覆いかぶさるように口づけた。

 ……なんで、そんなことするの。

「やめて!」
 渾身の力をふりしぼって、彼の胸を両手で押した。

「やめてください! 誰かと間違えてキスするほど、酔っているんですか!」

「違うよ。優ちゃんがあんまり悲しそうな顔をするから……」

 その言葉が刃のようにわたしの心を貫いた。

「同情でキスなんかしないで!」

「違う……優ちゃん、聞いてくれ」
「何を聞くんですか? だって……だって玲伊さん、彼女がいるのに!」

「彼女? 彼女なんていない」
「嘘! だって、わたし見たんですから。日曜日、外苑前で笹岡さんと玲伊さんがデートしているところ」
「デート? いや、それはね……」

 そのとき、玲伊さんのスマホに着信があった。
 彼は舌打ちしてポケットから出し、画面を見た。
 無視できない電話だったようだ。

「はい、香坂です……えっ? どういうこと?」
 
 緊急な要件らしい慌てた声で応答している。
 話はすぐ終わりそうになかった。

 その隙に、わたしは屋上を出て、置いてあった荷物を手に取ると、玲伊さんの部屋を飛び出した。

 頭ががんがんする。
 スパークリングワインのせいもあったけれど、それだけじゃない。

 玲伊さん、なんでキスなんかしたんだろう。

 彼には、笹岡さんがいるのに。
 わたしより数百倍も聡明で美しい、あの人が。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

決して飼いならされたりしませんが~年下御曹司の恋人(仮)になります~

北館由麻
恋愛
アラサーOLの笑佳は敬愛する上司のもとで着々とキャリアを積んでいた。 ある日、本社からやって来たイケメン年下御曹司、響也が支社長代理となり、彼の仕事をサポートすることになったが、ひょんなことから笑佳は彼に弱みを握られ、頼みをきくと約束してしまう。 それは彼の恋人(仮)になること――!? クズ男との恋愛に懲りた過去から、もう恋をしないと決めていた笑佳に年下御曹司の恋人(仮)は務まるのか……。 そして契約彼女を夜な夜な甘やかす年下御曹司の思惑とは……!?

契約結婚!一発逆転マニュアル♡

伊吹美香
恋愛
『愛妻家になりたい男』と『今の状況から抜け出したい女』が利害一致の契約結婚⁉ 全てを失い現実の中で藻掻く女 緒方 依舞稀(24) ✖ なんとしてでも愛妻家にならねばならない男 桐ケ谷 遥翔(30) 『一発逆転』と『打算』のために 二人の契約結婚生活が始まる……。

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お前、頬を叩いた詫びに婚約者になれ」 上司で社長の彪夏と秘書の清子はお似合いのふたりだと社内でも評判。 御曹司でイケメンの彪夏は女子の憧れの的。 清子はどこぞのご令嬢と噂され、男女問わず視線を集めていた。 ……しかし。 清子には誰もが知らない、秘密があったのです――。 それは。 大家族のド貧乏! 上は高校生、下は生まれたばかりの五人弟妹。 おっとりして頼りにならない義母。 そして父は常に行方不明。 そんな家族を支えるべく、奮闘している清子ですが。 とうとう、彪夏に貧乏がバレたまではよかったけれど。 子持ちと間違われてついひっぱたいてしまい、償いに婚約者のフリをする羽目に。 しかも貧乏バラすと言われたら断れない。 どうなる、清子!? 河守清子 かわもりさやこ 25歳 LCCチェリーエアライン 社長付秘書 清楚なお嬢様風な見た目 会社でもそんな感じで振る舞っている 努力家で頑張り屋 自分がしっかりしないといけないと常に気を張っている 甘えベタ × 御子神彪夏 みこがみひゅうが 33歳 LCCチェリーエアライン 社長 日本二大航空会社桜花航空社長の息子 軽くパーマをかけた掻き上げビジネスショート 黒メタルツーポイント眼鏡 細身のイケメン 物腰が柔らかく好青年 実際は俺様 気に入った人間はとにかくかまい倒す 清子はいつまで、貧乏を隠し通せるのか!? ※河守家※ 父 祥平 放浪の画家。ほぼ家にいない 母 真由 のんびり屋 長男 健太(高一・16歳)服作りが趣味 次男 巧(高一・15歳)弁護士になるのが目標 三男 真(小五・10歳)サッカー少年 四男 望(保育園年中・5歳)飛行機大好き 次女 美妃(保育園児・五ヶ月)未知数

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

処理中です...