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第3章 元カレとの再会
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『ヤマモト』の創業は大正年間。老舗の玩具メーカーだ。
1960年代、プラモデル全盛期に隆盛を極めたけれど、その後、子供の遊びの中心がゲームに移り、業績は次第に傾き、昨今は厳しい経営が続いていた。
「J.Cカンパニーの木沢です。こっちは辻本です。どうぞよろしくお願いします」
『ヤマモト』の会議室で、部長がわたしを紹介したとき、宗一郎さんは驚きを隠すことができなかった。
そして「えっ? 花梨……」と、小さな声でつぶやいた。
でもすぐ気を取り直し、よそゆきの顔に戻った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ああ、この声。
一気に月日が逆行し、耳元で囁かれた記憶が唐突にフラッシュ・バックした。
――可愛いよ、花梨……
こ、こら、なに思い出してるんだ、こんなときに!
赤くなった顔を見られないように、名刺交換が終わるとすぐ、「お願いします」と頭を下げた。
「世間における弊社のイメージははっきり言って古臭く、完全に時代に取り残されたものだと思うんですよ。それを払拭するにはかなり大胆なイメージチェンジが必要だと考えています」
宗一郎さんの言葉に、部長はコーヒーカップをソーサーに戻し、スッと背筋を伸ばした。
「なるほど。そのためには商品内容はもちろん、パッケージ、ロゴ、社員の意識改革……かなり大胆な手術を施す必要がありますが」
「はい。もちろん、そのつもりです。このまま、自分の代で会社を朽ちさせたくはありませんから」
宗一郎さんは断言した。
その横顔からは何十人もの従業員を背負って立つ責任感がにじみ出ていた。
あれから4年も経つのだから当たり前だけど、宗一郎さん、成熟した男性としての魅力が増したみたいだ。
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