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第6章 甘い計略
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青くライティングされたジェットバスに浸かり、くたびれはてた身体を勢いよく噴射される気泡に浸した。
背中から抱かれた姿勢のまま、彼の話に耳を傾ける。
「最近、帰りが遅かったのは、エリカと同じ理由。ヘリでフライトした日から、きみへの想いが募りすぎて、一緒にいるのが辛かったんだ」
「宗太さんも?」
「うん。素面だと悶々として眠れなかった。白状すれば、エリカの部屋に行きかけたこともある」
彼の言葉のひとつひとつが心に染みていく。
これ以上ないほど、心が満ち足りていく。
その気持ちを伝えようと、わたしの身体を包み込んでいる彼の腕にそっと触れた。
「飛行機だ」
指さしたほうを見ると、茜色に染まった空を、長い雲を引きながら滑るように飛ぶ飛行機の姿が見えた。
「新婚旅行はどこに行きたい?」
片手でわたしの胸のあたりを弄り、もう一方で次々と生まれる気泡と戯れている芹澤さんが耳元で言った。
「うーん、思いつかないです。すぐには」
「なんなら世界一周でもいいよ。プライベート・ジェットなら快適だし」
……まるで箱根にでも行こうかという気楽さで言う。
この感覚についていくには、相当時間がかかりそう。
でも、慣れてしまうのも怖い気がするけれど。
「でもその前に、まず、母に報告にいかないとね」
「そうですよね。まず、お母様に認めていただかなければ」
彼はわたしの髪を撫でながら
「心配いらないよ。母には事情を話してあるし。それに子供のころ、会ったことがあるはずだよ」
「それはそうですけど。やっぱり、改めて結婚の承諾を頂くのだから、緊張はします」
そのとき、彼のお腹が盛大に鳴った。
「そういえば、腹減ったな」
朝食はお茶漬けだけだったし、昼は抜いてしまったので、空腹なのはあたりまえだった。
風呂から上がり、お寿司を取って食べた。
夜は芹澤さんの部屋で休んだ。
さすがにふたりとも疲れていたので、ただ横で眠っただけ。
でも、彼の腕に包まれて眠る時間は極上で、ずっと起きていたいと思ったぐらいだけど、あまりにも心地良くて、すぐに意識が遠のいた。
夢は見なかった。
現実のほうが夢よりもずっと勝っていたからかもしれない。
***
「いってらっしゃい」
翌日、いつものように芹澤さんを玄関で見送る。
でも昨日までと違うことがひとつ。
それは〝いってらっしゃいのキス〟を交わすようになったことだった。
背中から抱かれた姿勢のまま、彼の話に耳を傾ける。
「最近、帰りが遅かったのは、エリカと同じ理由。ヘリでフライトした日から、きみへの想いが募りすぎて、一緒にいるのが辛かったんだ」
「宗太さんも?」
「うん。素面だと悶々として眠れなかった。白状すれば、エリカの部屋に行きかけたこともある」
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その気持ちを伝えようと、わたしの身体を包み込んでいる彼の腕にそっと触れた。
「飛行機だ」
指さしたほうを見ると、茜色に染まった空を、長い雲を引きながら滑るように飛ぶ飛行機の姿が見えた。
「新婚旅行はどこに行きたい?」
片手でわたしの胸のあたりを弄り、もう一方で次々と生まれる気泡と戯れている芹澤さんが耳元で言った。
「うーん、思いつかないです。すぐには」
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この感覚についていくには、相当時間がかかりそう。
でも、慣れてしまうのも怖い気がするけれど。
「でもその前に、まず、母に報告にいかないとね」
「そうですよね。まず、お母様に認めていただかなければ」
彼はわたしの髪を撫でながら
「心配いらないよ。母には事情を話してあるし。それに子供のころ、会ったことがあるはずだよ」
「それはそうですけど。やっぱり、改めて結婚の承諾を頂くのだから、緊張はします」
そのとき、彼のお腹が盛大に鳴った。
「そういえば、腹減ったな」
朝食はお茶漬けだけだったし、昼は抜いてしまったので、空腹なのはあたりまえだった。
風呂から上がり、お寿司を取って食べた。
夜は芹澤さんの部屋で休んだ。
さすがにふたりとも疲れていたので、ただ横で眠っただけ。
でも、彼の腕に包まれて眠る時間は極上で、ずっと起きていたいと思ったぐらいだけど、あまりにも心地良くて、すぐに意識が遠のいた。
夢は見なかった。
現実のほうが夢よりもずっと勝っていたからかもしれない。
***
「いってらっしゃい」
翌日、いつものように芹澤さんを玄関で見送る。
でも昨日までと違うことがひとつ。
それは〝いってらっしゃいのキス〟を交わすようになったことだった。
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