43 / 59
第五章 逃避行
十一
しおりを挟む
***
天音は桜子の手から盃を受け取り、脚付きの膳に戻した。
そして、彼女を軽々と抱き上げ、屏風の向こうの緋色の褥に連れていった。
天音は桜子を座らせ、軽い口づけを繰り返しながら、布団の上にゆっくり押し倒そうとした。
「天音……ま、待って」
桜子の声が不安気に揺れているのに気づいた天音は動きを止めた。
そして後ろに回り、彼女を安心させようと背中から抱きしめた。
やはり、怯えているのだろう。
桜子みずから望んだこととはいえ、男性と愛を交わす行為は、彼女にとって、まったく未知のこと。
戸惑うのはむしろ当たり前だ。
無論、桜子の不安を無視して、性急に事を進めるような天音ではない。
このまま一晩、抱きしめているだけでいい。
会いたくても会えなかった日々を思えば、それだけでも充分すぎる。
天音は桜子にそう伝えた。
「怯える必要はないよ。桜子が嫌なら、何もしない。こうしているだけでも俺は充分満足だから」
あやすように優しく、彼女の髪を指で梳き、うなじに口づけながら、そう囁いた。
桜子は大きく息をつくと、天音の方に顔を向けて言った。
「大丈夫です。怯えてなど……いないわ」
それから、うなじまで真っ赤に染めて、言った。
「天音、この間みたいに……」
「ん?」
「し、印をつけてほしいの。貴方のものだという……証の」
天音は「こうかい?」と言い、彼女の首の後ろを強く吸った。
「う……ん、ねえ、もっと、いろんな……ところに」
今度は天音が息を呑む番だった。
そして、いつもより低い声音で桜子の耳元に囁いた。
「わかった。じゃあ……数えきれないほど、つけてあげるよ」
天音は片手で彼女の顎を掴み、窮屈な姿勢で唇を合わせ、もう一方の手で、赤い絞りの腰紐を器用にほどきはじめた。
そうして、ゆるんだ衿元から手を差し入れた。
胸の膨らみを掬いあげた天音の指は、すぐにその頂きを探り当て、二本の指でそっと摘んだ。
「ひっ、あ……」
初めて経験する感触に、思わず声を上げてしまいそうになり、桜子は唇を噛んだ。
「ん? こんなこと、してほしくない?」
耳朶を唇で挟みながら、天音が甘く囁く。
「だ、大丈夫。あ、で、でも、恥ずかしくて……」
「恥ずかしいことは何もないよ。こうして触れられれば、気持ちよくなって当たり前なんだから」
天音はその行為を続けながら、さらに声を低めて「我慢せずに声をあげてもいいんだよ」と呟く。
じわじわとせりあがってくるような快楽に、桜子は息を荒げた。
「あん、もう、や、やめて」
天音の手が離れ、ほっとしたのもつかの間、彼は桜子を布団にそっと押し倒した。
そして、襦袢をはだけさせ、指を乳房の辺りで遊ばせながら、首筋に唇を這わせはじめた。
それから順に鎖骨や肩に口づけの跡を残しながら、色づいて固くなっている桜子の胸の頂きを口に含み、舌で転がしはじめた。
「ん、あっ……天音、やっ」
ぞくぞくする刺激にびくんと身体をはねさせて、桜子は天音の髪を軽くつかんだ。
天音は彼女の胸から顔を上げた。
その唇がつややかに光っている。
ほの暗い灯りの下で見る天音は、ぞくりとするほど凄艶で、桜子は一瞬息をするのも忘れた。
天音は桜子の手から盃を受け取り、脚付きの膳に戻した。
そして、彼女を軽々と抱き上げ、屏風の向こうの緋色の褥に連れていった。
天音は桜子を座らせ、軽い口づけを繰り返しながら、布団の上にゆっくり押し倒そうとした。
「天音……ま、待って」
桜子の声が不安気に揺れているのに気づいた天音は動きを止めた。
そして後ろに回り、彼女を安心させようと背中から抱きしめた。
やはり、怯えているのだろう。
桜子みずから望んだこととはいえ、男性と愛を交わす行為は、彼女にとって、まったく未知のこと。
戸惑うのはむしろ当たり前だ。
無論、桜子の不安を無視して、性急に事を進めるような天音ではない。
このまま一晩、抱きしめているだけでいい。
会いたくても会えなかった日々を思えば、それだけでも充分すぎる。
天音は桜子にそう伝えた。
「怯える必要はないよ。桜子が嫌なら、何もしない。こうしているだけでも俺は充分満足だから」
あやすように優しく、彼女の髪を指で梳き、うなじに口づけながら、そう囁いた。
桜子は大きく息をつくと、天音の方に顔を向けて言った。
「大丈夫です。怯えてなど……いないわ」
それから、うなじまで真っ赤に染めて、言った。
「天音、この間みたいに……」
「ん?」
「し、印をつけてほしいの。貴方のものだという……証の」
天音は「こうかい?」と言い、彼女の首の後ろを強く吸った。
「う……ん、ねえ、もっと、いろんな……ところに」
今度は天音が息を呑む番だった。
そして、いつもより低い声音で桜子の耳元に囁いた。
「わかった。じゃあ……数えきれないほど、つけてあげるよ」
天音は片手で彼女の顎を掴み、窮屈な姿勢で唇を合わせ、もう一方の手で、赤い絞りの腰紐を器用にほどきはじめた。
そうして、ゆるんだ衿元から手を差し入れた。
胸の膨らみを掬いあげた天音の指は、すぐにその頂きを探り当て、二本の指でそっと摘んだ。
「ひっ、あ……」
初めて経験する感触に、思わず声を上げてしまいそうになり、桜子は唇を噛んだ。
「ん? こんなこと、してほしくない?」
耳朶を唇で挟みながら、天音が甘く囁く。
「だ、大丈夫。あ、で、でも、恥ずかしくて……」
「恥ずかしいことは何もないよ。こうして触れられれば、気持ちよくなって当たり前なんだから」
天音はその行為を続けながら、さらに声を低めて「我慢せずに声をあげてもいいんだよ」と呟く。
じわじわとせりあがってくるような快楽に、桜子は息を荒げた。
「あん、もう、や、やめて」
天音の手が離れ、ほっとしたのもつかの間、彼は桜子を布団にそっと押し倒した。
そして、襦袢をはだけさせ、指を乳房の辺りで遊ばせながら、首筋に唇を這わせはじめた。
それから順に鎖骨や肩に口づけの跡を残しながら、色づいて固くなっている桜子の胸の頂きを口に含み、舌で転がしはじめた。
「ん、あっ……天音、やっ」
ぞくぞくする刺激にびくんと身体をはねさせて、桜子は天音の髪を軽くつかんだ。
天音は彼女の胸から顔を上げた。
その唇がつややかに光っている。
ほの暗い灯りの下で見る天音は、ぞくりとするほど凄艶で、桜子は一瞬息をするのも忘れた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる