ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう

文字の大きさ
87 / 145
第4章 強さを

04 マスターの帰還

しおりを挟む
 フェンは元このダンジョンのマスターだが、最上層まで来る冒険者が居なかったので、マスター権限を使ってフラフラと外界を歩き回り、傭兵ギルドに所属していた。ドラゴン男もまた、暇を持て余したダンジョンマスターだ。口ぶりからするとフェンをどこかで見知っているようだが、フェンのほうには覚えがない。

 激しく打ち合うフェンとドラゴン男、狭い部屋にひしめく魔獣たちも隙を見ては襲い掛かる。第5層は体力が尽き果ててもドローバックしない設定だ。殺されそうになっても、最後まで手かせ、足かせとなって敵にしがみつける。それもまた、秋瞑がここへと場を移した理由の一つだった。実際、ここでフェンとカガリビ二人で対峙すれば、ドラゴン男の勝利の目はなかっただろう。だが、カガリビは魔獣たちを第5層へ向かわせるため、不利な第4層で単身戦いを挑みドローバックしてしまった。
 30対1という圧倒的戦力差なはずが、決定的な攻撃が出来ず、結果的にドラゴン男に余裕を生まれさせた。

 一体、また一体と魔獣を魔石に変えていくドラゴン男。フェンの剣はすでにソードブレイカーに破壊され、後退を余儀なくされた。フェンリルの実体は、この部屋にこの人数で戦うには若干不向きなのだ。代わりに後方から魔法で氷の槍を打っている。
 後方に下がったフェンに対して、反対側の壁に背を預けたドラゴン男はニヤリと笑い大きな口を開けた。

「はっ、ブレスだ、お前ら、どけっ!」

 残った魔獣たちを強引に押しのけ、フェンリルの姿に戻ったフェンは、、全速でドラゴン男の喉元めがけて駆け寄った。そんなフェンよりも一歩だけ早く、ドラゴン男のブレスが吐き出されようとしたその時だった。

 ダンジョンのすべての生き物が圧倒的な拒否感に押しつぶされた。

 それはダンジョンマスター・コイルの帰還だった。


 ドラゴン男は、思いがけない圧力にあらがえず、後ろの壁にガンと頭をぶつけて、ブレスを天井方向に発してしまう。天井が激しく揺らぎ、閉ざされた空間であるモンスターハウスが外へと解放された。しかし、ドラゴンも他の魔獣たちも動けず膝をつく。ただ一体、フェンだけが気力を振り絞ってドラゴン男まで駆け寄りその足に噛みついた。

「くっ」

 未だ動きが取れないドラゴン男は、押しつぶされそうな拒否感に恐怖しながら、ダンジョンマスターとしての能力、ダンジョンへの帰還を、かろうじてフェンに足をかみ切られる前に発動した。
 その場から消えるドラゴン男、程なく緩む、コイルの圧力。
 ようやく動けるようになった魔獣たちに、しかし喜びの声はない。
 ダンジョン最強の30体の魔獣が、今は半数ほどしか残っていなかった。





 ダンジョンの最奥、第6層の淀みのある部屋に、コイルとミノル、そしてルフとポックルが呆然と佇んていた。
 第5層の戦闘状態が解除され、傷ついた魔物たちが転送されてきて、部屋は一気に狭くなった。
 足元には横たわる数十体の傷ついた魔獣たち。
 殆どの魔獣は意識があるが、脇腹を半分までも切り裂かれた羽鹿はその美しい白い角を両方失って、目を閉じたままだ。
 青白い顔をしながらもかろうじて人化して立っているのはカガリビだ。

「コイル様、落ち着かれるがよい。侵入者は今、あなた様の覇気に負けて、自分のダンジョンに逃げ帰った。これ以上そのギフトで圧迫されると、このダンジョンの魔獣どもが耐えられませぬ」

「……なんで……。なんで?」

 カガリビは軽く首を振って、肩をすくめた。

「よくある事よの」

 インターフェイスとカガリビが、なにがあったかを教えてくれた。
 他所のダンジョンマスターが暇を持て余して攻略に来ることは、たまにある事らしく、ダンジョン破りと言われる。魔獣は戦うことにこそ意義を見出すので、嬉々として迎え撃ち、今回のような場合は本来であれば、第1層から第4層までの魔獣は壊滅で、しかし第5層の上位の魔物たちはさほど傷を受けずに撃退したと思われる。だが幸か不幸か、このダンジョンは下層ではそもそも戦いにならず、本来ならば第5層に居るべき上位の魔獣が第3層や第4層に居て、結果として多くの下位の魔獣は助かり、上位の魔獣が痛手を負うことになった。
 先頭を切って戦った鬼熊はリーダーのアイをはじめとして多くが魔石と化し、その勢力を半分に減らした。羽鹿、氷狼、サンダーボア、など、その他の魔物も破れ、全部で23体の魔物が命を失った。

 ドローバックした魔物たちは、ここの淀みで数日かけて魔力を補給し、傷を治す。だが、傷が深く意識が戻らない秋瞑に関しては、治るかどうかはまだ分からない。

「フェイスさん、侵入者を転送で追い出すことは出来なかったの?」

「私はインターフェイス。マスター・コイルの意思に基づいて、このダンジョンの管理をします。侵入者を全て追い出す設定にすれば、ダンジョン経営は立ち行きません。強い侵入者のみを追い出す設定には出来ません」

「そうよの。それにインターフェイスはその権限内で充分頑張ってくれたゆえ。わらわも、本来であればもう少し戦えたのだが、ドローバックの最低条件である体力の半減で戻ってきたのは、万が一第5層が突破された場合の保険であろう。マイも、早めに戻ってきた故、もしもの時はここでマスターと一緒に戦えよう。秋瞑も、本来であれば切り裂かれて消えるところを、切られかけた途中でドローバックさせるという無茶をしたしのう」

「設定の範囲内です」

「……そっか。そだね。ありがとう。僕が居ればよかった。最初っから僕が……」

 足元の意識のない羽鹿の首筋を無意識に撫でながら、ぼんやりとコイルが言う。
 そんなコイルに、一緒に転送されてきたミノルが近づき、おもむろにゴツンと拳骨を落とした。

「いでっ」

「そうか。痛いか」

 そして、いつものように、ミノルはガシガシ、コイルの頭を撫でた。

「いだいよお、みのるざあん……ふぇぇっ、ふぇえっく、うぇーーーーん、あいがぁ、しゅうべえがぁ……ふぇーーん」
 堰を切ったように、ミノルにしがみついて泣き始めたコイルを、ミノルはガシガシと撫で続け、周りの魔獣たちは、少し困ったような顔で静かに眺めていた。
しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。

お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

処理中です...