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第4章 強さを

18 黄金の美女の名はマツ

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「私が戦っているのにのんびりお茶を飲むというのは、さすがに酷くないでしょうか?」

「やっぱり?ごめんね。ところで……そちらの女の人は金のカラスさん?」

「……何なんだ、お前たちは?」

 どうやら完全に秋瞑に抑え込まれたらしい金烏は、抵抗するのも諦め、コイルたちの前に立った。ボロボロにはなっているが、長い金の髪と羽が美しい、キツイ目をした美人だ。
 なぜか魔物が人化した時の姿は、とても整っていることが多い。その美しさは整いすぎてどこか冷たく、硬い魔石の輝きに通じるのかもしれない。
 そんな魔獣たちも親しく言葉を交わすうちに、いつしかふんわりとした温かさを持つことを、今のコイルは知っているのだけれど。

「八咫烏どもは逃げるし、ここに戻ってきても回復もしない。人間と魔獣が一緒にいて、私に勝ったのに殺しもしない。そこに居るのは、下のダンジョンのインターフェイスだろう?こんな小さな淀みに何の干渉をしに来たのだ?」

「薬草の森ダンジョンでは私たちのマスター・コイルが、新しい試みを始めました。そこでそもそも人間と戦う機会のないあなた方にチャンスを差し上げようと、勧誘に来たのですよ」

「優しい言葉の割には、ずいぶん手荒なことを」

「先に手を出したのはカラスでしたので、非難されるいわれはありませんね。手合わせもせずにただ話し合いをしましょうと言っても聞かないでしょう?」

 睨む金烏に、無表情で淡々と言葉を返すフェイス。金烏はしばらく睨んでいたが、すっと目を逸らし肩を落とした。

「負けたのだから、何を言っても仕方がないか。私はどうすればいい?」

「先ほども言いましたが、これは勧誘です。薬草の森ダンジョンに入り、マスター・コイルへの従属を」

「……わかった」

 その答えと共に、ほんのかすかにだが、コイルは金烏との繋がりが出来たのを感じた。
 金烏は八咫烏から進化した金色のカラスで、「マツ」と名乗った。淀みのある林の中に、一本だけある背の高い松の木がお気に入りの場所だかららしい。
 人化した見た目は若い金髪の女性なのだけれど、マツ……。
 マツがダンジョンの一員になったことで、飛び去って逃げた八咫烏たちも、負傷して飛べなくなっていた八咫烏たちも、ダンジョンに従属することに同意した。

「マスター、八咫烏たちのダンジョンでの仕事は、どうしましょう?」

 ダンジョンの一員になったことで、負傷した八咫烏やマツは、フェイスから魔力を受け取って徐々に回復している。その横で、秋瞑がコイルに問いかけた。

「あ、それも考えないといけないんだっけ。八咫烏って、何が得意なのかな」

「攻撃ならば、爪や嘴で引き裂く程度だな。慣れればよく喋る。賢いからな。自分で言うのも何だが」

「第4層に欲しいですね。飛んで上から偵察や牽制が出来るのは、守備の幅が広がります。矢羽達より体力があるので、攻撃を受けても安心ですし」

 数が多いので、交代で第4層を上空から守ることにした。休憩中は、第2層や第3層で声援を送るのも良いだろう。「バーカー、バーカー」とか、「アッホー、アッホー」とか、矢羽が覚えたかった言葉が得意らしいので。

「ふうん。こんな風に、ダンジョンのこと、決めてるんだねー。コイル、良い仲間ができたんだねー」

 リーファンがにこにこと笑う。リーファンと出会った頃はまだ一人で旅をしていたから、心配していたのだろう。
 その後は、ダンジョンの罠や、改良点など話し合いながら、暗くなってきた森の中で時間をつぶした。


 夜が更けて、睡眠の必要のない秋瞑と天下と残雪に見張りを頼み、コイルたちはテントで休ませてもらった。
 八咫烏たちは動ける程度に回復した順にダンジョンへと向かい、金烏のマツだけはこの先、一緒に行くことにした。まだ治りきらない腹を撫でながら、複雑な顔でテントを眺めている。
 そして、空が白みかけた頃、ここにあった淀みは消えた。

「マスター・コイル、新しく第5層の上部に移動した淀みを、ダンジョンに取り込みました。第5層の面積が広がりました」

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