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最終章 さよならダンジョン

16 の後も人生は続く

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 聖域の中にある村デルフは、今日も大勢の人々でにぎわっている。正式に支部として認められたデルフ村冒険者ギルドへ遊びに来たコイルは、所長になったユーインと応接室でお茶を飲んでいた。

「いつも冒険者ギルドは、活気があるね。ユーインさんも忙しいでしょう?」

「そうですね。ここは人手も多いので、大丈夫なんですが、欲を言えばもう少し休みを取って、私も第2層に遊びに行きたいものです」

「あ、でも第2層は冒険者の人向きじゃないですよね?」

「ええ。賭け事も禁止しましたし、あそこは面白い妖精も多くいるので、今は女性や子供たちの姿をよく見ますね。冒険者はやはり第4層でしょうか。私はフワモコが好きでして、まとまった休みが取れたらフワモコ達に会いに行くんですよ」

 ダンジョンが「薬草と脳筋達の森」になってから少しの間、第2層の3つのバトルステージはどうするべきか、関係者を含めて話し合いが続けられた。魔獣たちが聖獣になったことで、運動能力や性質が変わり、今まで通りのバトルができなくなったからだ。
 最も顕著だったのは飛針野ネズミ達。なにしろ、的あてに使っていた飛針が、フワフワ、モコモコの柔らかい毛になってしまい、飛ばすことができなくなったので。
 小さいけれどたくさんいるフワモコ達の新しい仕事は、ボール送り競争になった。スタートからゴールまでの15メルほどの距離をたくさんのフワモコが並び、フワフワの毛を上手に動かして、ボールを運ぶのた。対して人間側は股下を潜らせたり、頭上ごしに手渡ししたりして、速さを競う。
 最近、競技に慣れすぎたフワモコが、到底追いつけない速さでボールを送るようになったので、そろそろ新しい仕事を考えなければいけないと思っているところだ。
 ユニホーンラビは運動能力が上がりすぎて、ジャンプ勝負は負けなしになったので、現在は障害物競走をしている。
 白狸は、ダンジョンだったころから少し性質は変わっていたのだが、聖獣になって全員が人化出来るようになった。コロン、ツルっという感じの、ある意味可愛らしい容姿である。食べ物に対して特別強い好奇心を持っていて、今も早食い競争は第2層人気のステージだ。
 その横では、グルメが高じて料理を始めた白狸達により、時に料理バトル、時に料理教室が開かれている。
 沢山仕掛けてあった罠はみんな妖精になり、悪戯したり話しかけたり、好きに動いているようだ。

 第3層はアスレチックが増設され、聖獣バロンや薬師蛇、時には羽鹿などが隣のコースを猛スピードで走り抜け、遅い人間たちを笑ったりするので、運動に自信がある冒険者などは、躍起になって競争している。

 第4層は……語るまでもないか。脳筋達は相変わらずである。ダンクはそろそろ、一回くらいマイに勝っただろうか。残雪はファンにもらった刀が気にいったので、イメージのせいか最近人化した時は和服だ。たまに闘技場のバトルに参戦する秋瞑が強すぎて洒落にならないらしい。
 カガリビは秋瞑と協力して聖獣たちの調整役をしてくれているのだが、時々見かけるその姿は、男冒険者達のアイドル的存在である。年齢については内緒。
 フェンはふらふらと、外を歩き回って霧衣の山頂近くで新しい淀みを発見したらしい。ただ、そこも聖域の範囲内になっているので、程なく純魔力泉に変わった。そこにいた魔獣もしばらくの間、フェンと戦ったり龍王とジャンケン勝負しているうちに、何をきっかけにか、聖獣化してしまった。
 他にも、人化出来る聖獣たちはデルフ村まで出歩くことも多く、今では住民達に気軽に声を掛けられている。

「そういえばコイルさん、また遠くから来た冒険者のパーティーが、聖域を攻略すると言って昨日登って行きましたよ。一応聖域のルールについて助言はしたんですが、実力は特に問題も無さそうなので、第1層の受付にそう伝えておきました」

「わかりました。まあ、僕が出来る事ってあまりないんだけど。活きのいい冒険者が上がってきたら、みんな喜ぶと思うよ」

「それにしても、コイルさんが冒険者ギルドを辞めるなんて、私はもう残念で、残念で。農業ギルドのほうはどうです?嫌になったらいつでも帰ってきて良いんですよ」

「ありがとうございます。今はまだ、畑仕事が最高に楽しいからなあ。ユーインさんもまた、晩御飯食べに来てね」

「ありがとうございます。ところで今日はミノルさんは?」

「……また薬師ギルドに行ってるんじゃないかな?ほら、月曜と木曜はミミが受付にいるじゃないですか」

 最近、自分の薬草園の関係で薬師ギルドに行く機会が多くなったミノルは、コイルの知り合いの薬師ミミと仲良くなり、ついに先日、20歳以上の歳の差を乗り越えて、正式に交際するようになった。コイルが物置にと思っていたツリーハウスを新居にするべく、改築の真っ最中だ。

「じゃあ、また依頼持って来ます。お茶、ごちそうさまでした」

「ええ、いつでも気軽に来てくださいね。用事が無くてもお茶位出しますから」

 ユーインと別れて外に出ると、ポックルが外で待っていた。
 ポックルは今、コイルの家から霧衣山の上の方まで、自由に一人で行き来できる。看護ロバとして歓迎され、家にいないことも多いが、時折、どうやってだかこうしてコイルの居場所を見つけて、迎えに来てくれる。

「ありがとうね、ポックル」
「ひひん、ひん」

 たてがみを撫でながら、のんびり歩く。
 空は高く、風は爽やか。ふたりの上には光のシャワーが降り注ぐ。
 今日もまた、楽しい一日だ。
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