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聖域の日常(おまけのお話)

第3話 聖獣たちのチャームポイント

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「ダンクのやつはここで鍛えてやってもいいが、お前もまだまだ修業しねえとな」
「もちろんさ。あたしだっていつまでもフェンに負けてばかりじゃないよ」
「いや、勝てねえな」
「なんだとっ」

 珍しいことに、フェンがマイの世話を焼いているらしい。
 絶対に勝てないと言われていきり立つマイをいなしながら、説明を始めた。そもそもマイの攻撃は単調で力に頼ったものだ。それに加えて、いまじゃあダンクとの戦いが名物になっているため、相手になる冒険者もダンクか、それに似た脳筋タイプが多い。聖獣相手に訓練するときもその相手はほとんどフェンばかり。

「お前、秋瞑には突っかかっていかねえだろ。秋瞑も強ええのによう」
「それは……」

 マイは秋瞑を多少苦手にしているところがある。確かに性格的には合いそうにない。もっとも表立って仲が悪いというわけではないんだけど。

「もうちょっといろんな相手と戦って戦い方の幅を広げねえと、ダンクには勝てても俺には勝てねえな」
「じゃあ秋瞑さんに……」
「嫌ですよ。私はこのお子様の世話をするので忙しいんですから。こら、龍王!その技はこんな狭いところでやっちゃあ駄目でしょう」
「月面~着陸う~からのおおお、一回転逆落としだあああああ」

 ただのけん玉のはずが、気を乗せているので室内に暴風が渦を巻き始めた。それを秋瞑が冷気で抑え込む。
 激しい戦いだ。

 ……この二人は案外仲いいよね。
 それはさておき、マイはどうしたものかと押し黙ってしまった。

「本当は他のダンジョンに武者修行に出るのがいいんだがよ」
「え、基本的にはダンジョンマスターしか外には出られないんじゃないの?」

 僕がダンジョンマスターになった時にそう聞いたんだけど。
 と、フェイスさんの顔を見ると、小さくうなずいて答えてくれた。

「基本的には、そうです。聖域になってもその約束は変わりません。マスター以外の魔獣及び聖獣がダンジョンの外に出るには、ふたつの場合があります。ひとつはダンジョンマスターのお供として一緒に行動すること、もうひとつはダンジョンマスターの命令を受けて完全に人化して出ることです」

 マスターと一緒であれば、外に出ることはできる。まだ小さかった時の氷狼のルフが犬のふりをして僕の傍にいてくれたんだった。
 ダンジョンマスターの命令があれば、一人でも外に出れるのか。
 そういえば今までそんな命令を出したことはなかったな。

「完全に人化ってのが結構難しいからな。ここにいるのは長生きな奴が多いから何人かいる。俺もほら、どこから見ても人間だろ。マイはヒバゴンの特徴を残してるよな。毛皮みたいな服とか、丸い熊耳とか」
「じゃあフェンは一人で出れるし、秋瞑は羽と角があるから命令しても外には出れないんだ?」
「いえマスター、私も大丈夫です」

 龍王の頭を左手で抑えたまま、秋瞑が姿を変えた。秋瞑はいつも背中にキラキラと輝く真っ白な翼を、頭には立派に枝分かれした角を乗せている。それが見る見るうちに姿を変えて翼と角が消え、ごく普通の人間(……というには白くて美しすぎる気もするが)に変化した。

「マスターの命令とあらば、他のダンジョンへの単身殴り込みもやり遂げて見せましょう」
「それは頼んでないから!」
「俺も完全に人化できるぞー」

 秋瞑に頭を押さえこまれている龍王が、その手をどけようと頑張りながら言った。

「え、そもそも龍王は最初から普通の子供に見えるけど」
「えー、見て!ここ見て!」

 龍王が自分の首を指し示した。
 そこには透き通っていて芯が紅く輝いている鱗が数枚残っていた。

「ここが、エラなのだぞ!こだわりポイントなので普段は残しているのだ。でもほら」

 そう言うと、すっと鱗が消えた。

「今日は居ませんが、カガリビも完全に人化できます」
「というわけで、ここにいるメンバーで武者修行に出れねえのはマイだけなんだよな。お前さっさと修行して完全人化の術を身につけろよ」
「フェン、出来ないことを言っても仕方がないでしょう。あなたが人化できるようになったのは今のマイの倍以上の年になった頃でしょう」
「ちぇっ。武者修行にマスターを駆り出すわけにはいかねえしな」

 するとフェイスさんが手を挙げた。

「方法がないわけではありません」

 その方法とは、人化を促す秘薬についての情報だった。
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