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本編
緊急指令*オリバーside*
しおりを挟む国境沿いに点在している村の一つから程近い、騎士団詰所にて。
そこで先輩騎士であるグリードと、見習い騎士である私は対峙していた。
…………………
………
「……魔力回復させたのが俺だったら、何か問題があるのか?」
「では、やはり貴方が……」
「そうだ。私がセルジュの魔力を回復させた。私のせいで魔力涸渇させてしまったのだから、私が魔力回復させて当然だろう?……安心しろ。回復させる為の魔力をケチったりなどしていない」
「…………っ!!」
―――こいつっ!!!
ケチったりしていないだと?!
ならば、沢山魔力を注ぎ込んだという事か!!これで悪意が無い等と、逆に性質が悪い!!!
私が歯を食い縛り、拳を握り締めながら、必死に殺気を抑えていると、詰所の正面扉が勢いよく開いた。
中へと走ってきたのは、伝令役の先輩騎士。詰所内に一つだけある執務室へと駆け込んでいき、それまで好きに休んでいた騎士達が、何事かと集まってきた。
そして、もうまもなく私の中から、抑え込んでいた殺気が溢れ出す事になる。勿論、対象はグリードではない。
私達を監督する立場の騎士団第三部隊隊長が執務室から出てきた。そして、詰所内に居る騎士達へ向けて緊急指令を発令する。
「王都にあるバルトフェルト家がダイア公国の者に襲われ、令嬢が拐われたとの連絡が入った!犯人達の足取りは国境付近で途絶えたらしい!今すぐ捜索隊を結成し、国境を越えられる前に令嬢を保護、犯人共を捕縛しろ!!!」
「っ?!!」
―――ロゼ!!!
次の瞬間。
私の周囲から冷気が迸り、床や椅子、机をピシピシと凍らせていく。
そんな私を見て、隊長は驚いたように目を見開き、一歩後ろに後退した。他の騎士達も同じ様に私から距離を取っていく。私の魔力が膨れ上がり過ぎて、詰所内を圧迫してしまっているからだ。分かっている。早く抑えなければ。けれど―――
「隊長、私も捜索隊に加えて下さい」
「……っ?!その制服のラインは、まだ見習いだな?魔力量は確かに凄いが、見習いは国境の砦にて交代で監視役を……」
「隊長」
「グリード!」
私と隊長の会話に、グリードが入って来た。グリードだけは他の騎士達とは違い、私の傍に居ても顔色ひとつ変えず、微動だにしていなかった。実に腹立たしい。私は、グリードが私の邪魔をするつもりなのかと思い、鋭く瞳を細めて眉間にシワを寄せたが……
「彼の名はオリバー・バルトフェルトです。身内が拐われたのですから、じっと大人しくしているのは無理でしょう。本来であれば、それでもじっとさせておくのが正解ですが……」
「……っ」
グリードにチラリと視線を向けられ、私は溢れ出ていた殺気を少しずつ収束させていく。
まさか、さっきまで殺したいと思っていた奴に助け船を出されるなんて。
「彼は使える男です。暴走せぬよう、俺が監視致しますので、どうか捜索隊に加えてやって下さい」
「…………グリードがそこまで言うのならば仕方あるまい。オリバー・バルトフェルト。捜索隊へ加わる事を許可する」
「ありがとうございます!!」
「……礼ならばグリードに言うといい。それと、全て解決したら床を直しておけ!」
「はっ!!」
私がそう返事をすると、隊長は各騎士達に指示を出しながら執務室へと戻っていった。他の騎士達が隊長の指示に従って慌ただしく動き始める中、私はグリードを正面からじっと見据える。
「……どうした、オリバー。まだ俺に話でもあるのか」
私はグリードの言葉に対し、首を振った。まだ、グリードに対しての怒りが消えた訳じゃない。けれど、グリードの発言がなければ、私は恐らく捜索隊には加えて貰えなかっただろう。
だから。
「ありがとうございます、グリード先輩。本当に、助かりました」
私の礼の言葉を聞いて、グリードは僅かに目元を緩めた。
「礼には及ばない。お前が使える男だというのは本当の事だ。だが、さっきのように暴走だけはしてくれるな」
「……気を付けます」
「それと、“先輩“はいらない。俺の事はグリードと、呼び捨てでいい」
「分かりました、グリード」
* * *
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