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《分岐》アレク・ユードリヒ
アレクvsバルトロ
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ナンバーズ専用の訓練場で、アレクとバルトロが戦っている。それは鍛練や模擬戦とは思えないもので、まるで真剣勝負だった。二刀流のアレクと素手のバルトロ。普通ならば、剣を持っている方が有利だろう。けれど、相手はあのバルトロだ。
バルトロはアレクの剣を悉く避け、手の甲で受け流していく。けれど、アレクの剣技も本物だ。逞しくも靱やかな筋肉をしならせて、バルトロの拳をギリギリで回避し続けている。
「なかなかやりますね。こんなに攻撃を避けられたのは久しぶりかもしれません」
「はぁ?全然本気じゃねェくせに……!」
「当たり前でしょう?本気を出したら、すぐに終わってしまいますからね」
「……この野郎っ!!」
バルトロの拳がアレクの顔に向けて繰り出されたが、アレクが顔を左に傾け、寸でのところでソレを避けた。アレクは直ぐ様体勢を僅かに低くし、二刀の刃を交差させてバルトロの胴を斬りつけようとする。しかし、バルトロは瞬時に上へと跳んで、アレクの頭上をくるりと回転しながら着地した。アレクの背後をとったバルトロが、身体を捻って更に拳に力を込める。そうして繰り出された拳が、今までギリギリで回避していたアレクの脇腹にクリーンヒットしてしまった。
「……ぐっ!!」
バキバキと嫌な音が聞こえた。
アレクのあばら骨が折れた音だ。ロゼリアは口元を手で押さえて、顔色を無くしていく。バルトロが地面を蹴って高く速く跳んだ。今の攻撃で吹っ飛んでいったアレクに追いつき、空中で更にもう一撃拳を加えようとしている。
だが、一瞬驚いたような顔をして目を見張ったバルトロが、拳ではなく、身体を捩るように回転させて、アレクに蹴りを入れた。
「アレク!!」
アレクが地面に叩きつけられ、土煙が舞う。訓練場の地面は綺麗にならされているのに、アレクが叩きつけられた所は、バルトロの蹴りの威力でクレーターのように凹んでしまっていた。
ロゼリアが急いでアレクの元へ駆け寄ろうとすると、バルトロがにっこりと良い笑顔でロゼリアの腕を掴んだ。
「離して!!」
「セルジュ君。彼、見込みがありますよ。見て下さい」
「?!」
見せられたバルトロの腕には、剣で斬られた深い切り傷があった。ゴポッと血が噴き出していて、白い部分が見えている。
「?!……バルトロ、それ……!」
「僕が空中でもう一度殴ろうとした時、彼が技を出してきたんです。あばらが折れているクセに、なかなかに良い根性だ。この傷は治癒師に治してもらわないといけません。……治癒師の世話になるのは久しぶりですよ。ふふ、思っていたよりも楽しめました。またいつでも相手になると、彼に伝えておいて下さい」
「…………っ」
「ああ、そうだ。此方に治癒師を寄越しますから、少しの間、待っていて下さいね」
バルトロは上機嫌で訓練場から退室していった。ロゼリアはアレクの元へ向かい、「アレク!!」と呼び掛ける。アレクはボロボロで酷い打撲傷が出来ており、口や鼻から血が出ていた。ロゼリアはアレクの顔を両手で包み込み、目を瞑っているアレクを見て、名前を何度も呼びながらポロポロと涙を流してしまっていた。
「……いってぇ…………」
「アレク?!」
「く、そ…………マジであいつ、強すぎだろ……」
身体を起こそうとするアレクに、ロゼリアは焦って抱き着いた。アレクの身体を起こさないように、必死に強く、ぎゅうっとしがみつく。
アレクが目を見開いて、ビシッと固まった。
「せ、セルジュ?」
「馬鹿アレク!!なんでバルトロに喧嘩を売ったんだよ!それに、起き上がっちゃ駄目だ!骨が折れてるんだよ?!」
「なんでって……………いや、まぁ、確かに骨は何本か逝っちまった感じだけど、起き上がる事くらいは……」
「駄目!絶対駄目だから!!大人しくじっとしてて!治癒師が来るまで、ずっとこうして押さえとくからな!!」
「………………セルジュ」
「駄目!……僕、離れないから。うっ。うぅ~~!アレクの馬鹿!アホ!」
「そんなに泣くなよ。俺が頑丈なの、知ってるだろ?」
「泣いてないっ!」
「…………いや、すげー泣いてるけど」
「泣いてないったら泣いてないっ!」
「……わかった。わかったから……」
「っ?」
アレクが、私の身体を左手でぎゅっと抱き締め返した。私は驚いてアレクを見つめる。すると、アレクが徐に右手で、自身の鼻血をぐいっと拭った。
「……アイツに喧嘩を売った理由なんて、一つしかねぇよ」
「え?」
「アイツ、セルジュの腰を抱いて口説いてただろ?」
「…………ヘ?」
ロゼリアは目を丸くした。
バルトロに口説かれた覚えはない。アレクが何を言っているのか、理解出来なかった。
「普段からあんなに密着してくるのか?」
「な、何言ってるの?アレク、僕はバルトロに口説かれてなんか……」
「セルジュ」
「……っ!」
地面に寝転がったままのアレクの上に乗って、抱き締められているロゼリアは、耳元で聞こえるアレクの声に思わずドキリとしてしまう。
「お前、昔から鈍いよな。可愛いけど、無防備過ぎて心配になる」
「か、可愛いって……僕、男なんだけど……」
「そうだったな。あーあ。なんで男なんて好きになっちまったんだろ」
「アレク……?」
「でも、その割りには柔らかいよな。柔らかくて、良い匂いで……」
「ちょ、アレク?!やっ……」
スンスンとアレクがロゼリアの匂いを嗅いで、ロゼリアの身体の感触を確かめるように撫でていく。
ロゼリアはビクリと身体を震わせて、顔を真っ赤にした。
「あ、アレク。撫でるの、擽ったいよ……」
「じゃあ、起き上がってもいい?」
「それは駄目。怪我に響くから、大人しくしてて」
「なら、お前は俺に大人しく擽られてろよ。……つーか、駄目だ、俺。お前が可愛くて、やばい」
「ひゃっ?!ちょ、本当にちゃんとじっとしててよ!それと、擽るの止めろって!!」
「…………なぁ、セルジュ」
「アレク!いい加減に……」
ロゼリアが自身の身体を起こそうとするけれど、アレクの力が強くて離れる事が出来ない。アレクの怪我が気になって、アレクの身体を強く押し返す事も出来ずに、ロゼリアはアレクの上で、頭以外身動きが取れなくなってしまっていた。
ロゼリアが顔を上げてアレクに抗議の眼差しを向ける。だが、アレクの瞳は熱を帯びていて、ロゼリアは瞳を逸らす事も出来ずに、その瞳に捕らえられてしまった。
「セルジュが好きだ。……俺の気持ち、無かった事にしないでくれ。好きだ、セルジュ」
* * *
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