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《分岐》バルトロ・グレイヴィズ

貴女の名前が知りたい*バルトロside*

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(おかしい)

僕はどうして、セルジュを僕の部屋に連れてきたのでしょうか?

(瞳が灰色のままだから?)

確かに僕はセルジュの真意を見極めようと思って性別の事を知った後も、セルジュが女だという事は誰にも言わなかった。けれど、例えバレてしまったとしても、それはそれだ。僕がセルジュを守る必要なんてない。

なのに――――

「あの、バルトロ?どうして私をここに……?」
「さぁ、どうしてでしょうね?」
「それに、その……公爵家別邸で言っていた襲うって、冗談ですよね?」
「僕はあまり冗談を好みません。貴女が僕の言葉を無視して、僕を何度も見たりしていたら、あの場で殺していたかもしれませんね」
「え?……まさか、襲うってkillの方??」
「きる??」

セルジュが何を言っているのか、いまいちよく分かりませんね。
……本人は無自覚のようですが、公爵家別邸で嗅がされた香のせいで、セルジュの頬は赤く、瞳も潤んでいる。そんな状態のセルジュを見ると、何故だか胸の内がざわざわして、落ち着かない。もしも長時間見つめ合ったりしたら、僕は恐らく、平静ではいられないでしょう。それが何故なのかは分からないですが。

リアム様と合流した時は、あまりセルジュを見られないように、直ぐ様【影移動】した。リアム様なら回復魔法が使えるのに、僕は何故だか、セルジュが女だとバレたらまずいと思ってしまっていた。

(僕にとって、何の得にもならないのに……)

僕はただ、セルジュが勝手に居なくなったらと思ったら、無性に腹が立って――――

「バルトロ……?」
「…………」

僕は抱き上げていたセルジュを寝室のベッドに降ろしてから、僕自身もベッド端に腰を下ろした。セルジュに対して口角を上げつつも、苛立ちからついつい視線が鋭くなってしまう。

「……貴女の落とし物を拾いました」

そう言って、公爵家別邸の階段で拾った、瞳の色を変える為の魔導具をセルジュに見せると、途端にセルジュは驚いた顔をして手を伸ばして来た。

「……っ!魔導具を落としていたなんて……!拾ってくれて、ありがとうございま――――」

しかし、僕はひょいと魔導具を、セルジュの手の届かない位置へと遠ざけた。セルジュが辛そうに浅く息を吐きながらも、ムッとした顔をする。

「……何の真似ですか?」
「この魔導具は僕が拾いました。という事は、これは僕の物ですよね?」
「なっ?!」
「どんなものに対しても対価が要ると思うのですが?」
「~~~~っ」

セルジュは悔しそうに唇を噛み締め、潤んだ瞳で僕を睨み付けてきた。
どうしよう。なんでかゾクゾクする。

「私の魔導具なのに……」
「僕が拾いましたから」
「…………対価と言われても、私にはあげられるものなんて……」
「名前を教えて下さい」
「………………え?」

セルジュが、心底意外だとでも言うように、大きな灰色の目をぱちくりしている。
一番不思議に思っているのは、他でもない僕自身だ。聞き出すならば、もっと他にも色々ある筈なのに。

「――――僕は、貴女の名前が知りたいのです。教えて下さい」


* * *
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