【R18】傷付いた侯爵令嬢は王太子に溺愛される

はる乃

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本編

フェリクスの贖罪

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マルティス王国とヴァルリア王国の国境にある草原にて。
今や草原は戦争による両国軍の影響で、大部分が焼け野原と化していた。

戦争の最前線。
陣頭指揮を執りつつ、フェリクスは先陣を切って戦っていた。普段、執務に追われながらも欠かさず鍛練を積み重ねてきたフェリクスは、近衛騎士に引けを取らぬ実力者だ。
もしかしたら乙女ゲームのヒーロー補正もあるのかもしれないが、ヒロインさえ退場してしまっている今、この世界は既に乙女ゲームから遠くかけ離れてしまっている。
目の前の世界は紛れもない現実で、どこまでも残酷な現実なのだ。

「例の武器が来る!!盾を構えろ!!魔法師は結界を張れっ!!」

フェリクスのよく通る声が響き渡った。
数少ない魔法師達が結界を張り、騎士や兵士達がその中で盾を構える。
帝国産の武器は、現代風に言えばマシンガンに近い。武器自体に魔法陣が刻まれていて、使用者の魔力を使い、弾丸を高速連射してくる。
しかし、マルティス王国に限らず、他国でも魔法師の存在は稀少な筈で、魔力保持者自体が激減している今の世に、こんな武器を使用出来るのはおかしい。フェリクスはいくつか無力化出来た帝国産の武器を本陣へ持ち帰らせ、前線とは別に待機させていた魔法師達に武器に記されている魔法陣の解析をさせていた。

(くそっ……!どうにも、嫌な予感がする)

帝国産の武器に魔力を供給しているらしい敵兵達は、どう見ても魔法師ではない。顔色は酷く青褪めていて、まるで重篤な病の病人のようだ。
あの武器は恐らく、使ってはならない諸刃の剣。

騎士や兵士達が結界の中に身を潜めるけれど、魔法師達の結界は万能ではない。フェリクスが足に力を込め、一歩前に踏み出した瞬間、電光石火の如く戦場を駆け抜けた。
フェリクスに魔力は無い。けれど、彼の優れた身体能力がそれを可能にさせる。弾丸の軌道を読んで躱し、躱し切れなかった弾丸は手にしている剣を回転させて弾く。とても人間技とは思えぬ光景に、敵の兵士も味方の兵士、騎士達も唖然としていた。

「はああああっ!!」

敵の武器を破壊させる事は出来ないが、無力化させる方法だけは分かっている。刻まれている魔法陣に剣を振り下ろし、傷をつけてしまえばいい。そうすれば、魔法陣は効力を失い、触れても発動しなくなる。

「ひいぃっ!!」

あれ程に凶悪な帝国産の武器と渡り合えているフェリクスは、敵からしたらヒーローではなく化け物だろう。敵兵が無力化された武器を前に腰を抜かし、ズリズリと後退する。殺されると思っているからだ。しかし、フェリクスはそんな敵兵を放置して、直ぐにその場を離れた。敵兵が思わずポカンとしていると、まもなく弾丸の雨がその場に降り注ぐ。少し離れた位置に配置されていたヴァルリア兵が、フェリクスを殺す為に、同じ帝国産の武器を使用して攻撃してきたからだ。

直ぐにまた攻撃されると分かっていたから、フェリクスはその場を離れたのだ。腰を抜かしていたヴァルリア兵は何が起こったのか理解出来ぬまま蜂の巣にされてしまった。
フェリクスは今撃ってきた武器も無力化した後に、急ぎ後退して味方の魔法師が張っている結界の中へ戻る。

「殿下っ!!」
「ご無事ですか?!」

フェリクス直属の近衛騎士達が駆け寄って安否を気遣う。フェリクスは玉のような汗を滲ませたながら地面に片膝をつき、はぁはぁと息遣い荒く、必死に呼吸を整える。

「やはり一度に、二つが……けほっ……限界だな……」

いくら身体能力が高くとも、体力には限界がある。
フェリクスは速く速く脈打つ鼓動に顔を歪ませ、ぐっと片手で胸を押さえた。

「殿下自らアレに飛び込むのはお止め下さい!!」
「そうです、殿下!これは我等の仕事です!!」
「抜かせ。一番足の早いジェルドが負傷してしまっているじゃないか。例えアレを無力化出来たとしても、その身と引き換えでは到底釣り合わん。お前達にどれ程の価値があると思っている」
「……っ!」
「殿下!!価値があるのは、我等よりも尊い御身である殿下の方であります!!何故それを分かって下さらないのか?!」
「はは。……尊い御身、ね」

あの女を消し、ヤデルを処刑し、更に潔癖な奴等を追い詰め、今は敵兵の命を当然のように散らす自身に胸の内で嘲笑する。

奴等は裁かれて当然だ。
マリアンヌをあれだけ傷つけたのだから。
けれど――――

(私だって、例外ではない)

不可抗力だった。
どうしようもなかった。
マリアンヌは、私を許してくれた。私の辛さを分かってくれていた。

だが、到底割り切れる筈がない。

あっさりと魅了の魔法にかかってしまった事実。
己の無力さが恥ずかしくて情けない。
あんなに恋い焦がれ、愛していたマリアンヌを自ら傷つけてしまった。
その過去は消せない。
その事実は消えない。

マリアンヌが許してくれても、私は未だ私自身を許せない。
彼女を一人にしないと、傍に居ると誓った。傍に居て欲しいと、居なくならないで欲しいと願い、懇願した。
だから
私は死なない。死ねない。

私の贖罪は“死”ではない。

彼女を傷つけた罪を背負いながら、彼女を何者からも守りきる。
敵兵から、権力から、世界から。
そして民を、国を守る。

その為に、この身を使う。

彼女を愛してる。
この国の民を愛してる。

愛してる故に、この命を使う。

一番愛してる人を傷つけておいて。
そのせいで、彼女が更に深い傷を負ったのに。
それでも私は、彼女を手離せない。
欲深く、彼女との未来を望んでしまう、どうしようもない私は、王族だ何だと言う前に、ただの浅ましく愚かな男。

生きながらに、その業を背負い続ける。
それが私の―――……


「フェリクス殿下!本陣にいる魔法師長から魔法陣の解析を終えたとの報告が入りました!!」

私は口元に笑みを浮かべ、足に力を入れて立ち上がる。

「解析結果を聞こう。私が戻るまでは遅滞戦闘に務めろ!!無駄な死者を出さずに時間を稼げ!!」
「「「ハッ!!」」」

防戦一方はもう終わりだ。
反撃といこう。
そうしてそのまま、彼等には自分達の国へお帰り願おうか。

フェリクスの瞳が細められた。
いつかのように、まるで凍えるような冷たい色を宿して。


* * *
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