【R18】傷付いた侯爵令嬢は王太子に溺愛される

はる乃

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本編

二人の結婚式

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王宮の敷地内にある、厳かで静謐な大聖堂。
キラキラと虹色に輝くステンドグラスの光を浴びながら、今日この日、マリアンヌはフェリクスと結婚する。二人は、晴れて夫婦となるのだ。

二人の前には、マリアンヌと一日でも早く結婚したいのだと許可を得るためにフェリクスが数日掛けて説き伏せた聖教会の最高司祭が立っている。皺の多い顔に、にこやかな笑みを浮かべて、最高司祭は大聖堂全体に「これから二人の、婚姻の儀を行います」と声を響かせた。

そうして、その宣言通りに、二人の結婚式――――神への誓いが始まる。


「フェリクス・オベール・マルティス。貴方はマリアンヌ・アルヴィエを妻とする事を神に誓いますか?」
「誓います」
「マリアンヌ・アルヴィエ。貴女はフェリクス・オベール・マルティスを夫とする事を誓いますか?」
「…………」

直ぐ様答えたフェリクスと違って、マリアンヌは暫し沈黙する。
それは、参席者達が疑問に思う程の間では無かったが、フェリクスには随分と長く感じられた。

(マリアンヌ……?)

今日までに、何度も互いの愛を確かめ合った。
その時に聞いた、フェリクスを愛しているというマリアンヌの言葉には、嘘はなかった。けれど、もしかしたら。

(……本当は王太子妃になんてなりたくなかったのだろうか?)

フェリクスを襲う一抹の不安。

しかし。


「……誓い、ます」


耳に届いたマリアンヌの声は、今にも泣きそうな声だった。
驚き、目を見開いてじっと見つめると、薄く透けたベールの向こうに、瞳一杯に涙を溜めたマリアンヌが、小さく肩を震わせていた。

(こんな幸福な日が、私にやって来るなんて……)

フェリクスが、シュゼットに掛けられた魅了の魔法のせいで、婚約を白紙撤回したあの日から、色々な事があった。
地獄のような日々を経験して、もう二度とフェリクスの隣に立てる日は来ないのだと思っていた。
ただただ絶望し、最後には死を望んだ。


けれど、今。
自分の隣には、愛しい彼が居る。
気持ちを捻じ曲げてしまう魅了の魔法が解け、再び戻ってきてくれた彼が。

(既に穢れてしまったのに)


……フェリクスはマリアンヌを綺麗だと言った。
そして、納得しないマリアンヌの気が済むまで、フェリクスは何度でもマリアンヌを抱いた。綺麗にしてあげると、甘く、囁きながら。

ずっと、穢れてしまった自分は、もう彼には相応しくないと思っていた。だけど、彼は何度でも綺麗にしてくれる。そして――――

「私、マリアンヌは…………例えどんな苦難に立たされても、喜びも悲しみも彼と共に分かち合い、彼を……フェリクス様を愛すると、誓います」

フェリクスの息を呑む音が、微かに聞こえた。

「私は、ずっと貴方の隣に居たい。どうか私を……」



“貴方だけの、花嫁に”。



次の瞬間には、フェリクスがマリアンヌを力強く抱き締めていた。
大聖堂に、参席者達の歓声が響き渡る。

最後の言葉は、隣に居たフェリクスにしか聞こえなかった。
それで構わない。
司祭や参列者達に聞こえていなくとも、神には届いただろうから。

(……むしろ、聞こえたのが私だけでもいい)

底知れぬ独占欲。
マリアンヌの声も、心も身体も、その指先から髪の毛一本さえ、誰にも渡したくない。

フェリクスはマリアンヌをしっかりと片腕で抱き寄せたまま、少し乱暴にベールをくしゃりと捲り上げ、誰の視線も気にする事なく、マリアンヌに情熱的な誓いのキスをした。

「フェリ……っ…………はっ……ンン♡」

あまりに長く深い口付けに、見ている者達まで顔色を真っ赤に染める中。年老いた最高司祭だけが淡々と式を進め、二人へ渡される予定の国王からの下賜品をそっと台座の上に置いてから、これにて滞りなく結婚式が終了した事を告げた。

二人はその後、大聖堂の外へ出て、マルティス王国の民達にも見える場所から、自分達が無事に結婚し夫婦となった事を知らせた。
そこでもフェリクスがマリアンヌに情熱的なキスをした為、集まっていた多くの国民達が二人の熱愛ぶりに熱狂し、歓声を上げたのだった。


……………………
…………


そうして、結婚式と国民へのお披露目が終わった後。
フェリクスはマリアンヌを抱き上げて寝室へ直行した。もう限界だったのだ。

「マリアンヌ……!」
「待っ、待って、フェリクス様!ドレスが………ひゃあ?!」

フェリクスはマリアンヌをベッドに降ろすと、そのまま押し倒して覆い被さった。
マリアンヌの柔らかな唇に自身の唇を重ね、やや強引に舌を侵入させ、口腔内を蹂躙する。ドレスの上から形の良い双丘に触れて、その形を変えながら揉みしだいていくと、じわじわと鈍い快感を感じたマリアンヌから身体の力が抜けていく。

頬を上気させ、潤んだ瞳を蕩けさせていくマリアンヌが、堪らなく愛しくて。

やがて深い口付けから解放すると、フェリクスは熱の籠った青い瞳で焦がれるようにマリアンヌを見つめ、甘く低い声音で囁いた。


「私の、私だけのマリアンヌ。愛してる。君の今も、未来も、全部全部、私のものだ」
「フェリクス、さま……」

マリアンヌは、お腹の奥がキュウッと熱くなり疼くのを感じた。
自分を欲する、強烈な独占欲が、嬉しくて愛おしくて堪らない。

フェリクスの背に両腕を回りして、ぎゅうっと抱きつくと、「そのまましがみついていて」と言われた。

少しだけ背中が浮いたと思ったら、しゅるしゅると紐が解かれる音が聞こえてきて、マリアンヌは自身のドレスが脱がされていっている事に気付く。

「……あっ…」
「可愛いマリアンヌ。……今日は寝かせてあげられないかもしれない。覚悟しておいて」
「~~~~っ」



――――そうして、その日。
フェリクスは宣言通り、本当にマリアンヌを寝かさなかった。


* * *
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