恋を手放したヒーラーは、静かに光を集める

塩塚 和人

文字の大きさ
11 / 12

第11章 断らない理由

しおりを挟む

朝の空は、
雲ひとつ
なかった。

治癒工房《ルーメン》の
扉を
開けながら、
ルーチェは
昨日の
夜を
思い出す。

告白。

その言葉の
重さは、
まだ
胸に
残っていた。

「……考えすぎ」

小さく
呟き、
頭を
切り替える。

今日は、
今日。

仕事は、
待ってくれない。

店内を
整え、
準備を
終えた
その時。

カラン。

鈴が
鳴る。

「おはよう
ございます」

聞き慣れた
声。

顔を
上げると、
ケリーが
立っていた。

昨日と
同じ
穏やかな
表情。

けれど、
どこか
緊張が
混じっている。

「……おはよう
ございます」

少し
間を
置いて、
返す。

気まずさは、
なかった。

それが、
逆に
不思議だった。

「今日は……」

ケリーは、
言葉を
選ぶ。

「お願いが
あって
来ました」

胸が、
小さく
鳴る。

「はい」

促す。

「昨日、
言った
通りです」

「店を
手伝わせて
ください」

直球。

逃げ道の
ない
申し出。

「治癒は
できませんが」

「雑用でも、
力仕事でも」

「迷惑には
なりません」

必死さは、
感じられる。

けれど、
押しつけが
ましさは
ない。

「……どうして
そこまで」

素直な
疑問。

ケリーは、
一瞬
考え、
答えた。

「断られる
理由が
ないと
思った
からです」

「え?」

「あなたは、
誰かに
甘えない」

「一人で
全部
背負おうと
する」

「でも」

一度、
言葉を
切る。

「支えを
拒む
理由は
ないはずだ」

胸の
奥を
突かれた。

図星。

否定
できない。

「……私は」

言葉を
探す。

「仕事に
集中
したい
だけです」

「恋愛を
する
余裕は
ありません」

ケリーは、
静かに
頷く。

「それで
いいです」

「俺は、
恋人に
なる
ために
ここに
来た
わけじゃ
ない」

その言葉に、
目を
見開く。

「一緒に
働く
仲間に
なりたい
だけです」

仲間。

その響きは、
心を
軽く
した。

「……条件が
あります」

自然に
口が
動く。

「はい」

「恋愛を
期待
しない
こと」

「私の
生活や
判断に
口出し
しない
こと」

「それでも
いいなら」

一つ
一つ、
区切って
伝える。

ケリーは、
迷わず
頷いた。

「全部
守ります」

即答。

「……本当に
いいんですか」

「告白して
おいて」

「それは
矛盾
していませんか」

ケリーは、
少し
笑った。

「気持ちは、
俺の
問題です」

「あなたに
背負わせる
ものじゃ
ない」

その
考え方に、
胸が
じんと
する。

「……わかり
ました」

ルーチェは、
一息
つく。

「人手は、
正直
足りません」

「お願いします」

それは、
仕事としての
判断。

感情は、
後回し。

ケリーの
表情が、
一瞬
明るく
なる。

「ありがとうございます」

深く
頭を
下げる。

その姿に、
少しだけ
胸が
温かく
なった。

午前中。

二人で
店を
回す。

包帯の
補充、
掃除、
客の
誘導。

ケリーは、
指示を
待ち、
黙々と
動いた。

余計な
ことは
しない。

距離も
保つ。

その
態度が、
ありがたかった。

「……助かって
います」

思わず
口に
出る。

「よかった」

短い
返事。

それだけ。

昼過ぎ。

一息
ついた
時間。

二人で
水を
飲む。

「……どうして
護衛を
やめたんですか」

ふと
尋ねる。

ケリーは、
少し
考えて
答えた。

「守れなかった
ことが
あった」

それ以上、
語らない。

深追い
しない。

それが、
自然に
できた。

夕方。

店を
閉める
準備。

今日一日、
問題は
なかった。

むしろ、
スムーズ
すぎた。

「……断らなかった
理由」

鍵を
かけながら、
ルーチェは
呟く。

「はい?」

「あなたを
断らなかった
理由です」

ケリーは、
静かに
待つ。

「あなたは、
私の
時間を
奪わない」

「踏み込む
ところと、
踏み込まない
ところを
わかって
いる」

「それは……」

言葉を
探す。

「信頼
できる
と思った」

ケリーは、
何も
言わなかった。

ただ、
深く
頷いた。

「……それで
十分です」

夜の
通りに、
灯りが
ともる。

二人は、
並んで
歩き出す。

距離は、
まだ
ある。

けれど、
無理に
詰める
必要は
なかった。

断らない
理由は、
恋では
ない。

信頼と、
安心。

それだけで、
今は
十分だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

処理中です...