恋を手放したヒーラーは、静かに光を集める

塩塚 和人

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第10章 告白

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朝の光は、
いつもより
やわらかく
感じられた。

治癒工房《ルーメン》の
前を
掃きながら、
ルーチェは
深く
息を吸う。

空気が、
澄んでいる。

理由は、
わかっていた。

「……来る
かな」

小さく
呟き、
すぐに
首を
振る。

期待
している
自分を、
戒める。

恋は、
しない。

それは、
揺るがない
決意。

けれど、
人を
遠ざける
必要は
ない。

そう
気づいてから、
心は
少し
軽かった。

カラン。

鈴の
音。

振り返る。

扉の
向こうに
立っていたのは、
やはり
ケリーだった。

「おはよう
ございます」

少し
照れた
ような
声。

「……おはよう
ございます」

自然に
返せた
自分に、
驚く。

彼は、
今日は
外套を
着ていない。

動きやすい
服装。

「今日は
治癒じゃ
ありません」

そう
言って、
微笑む。

「……わかって
ます」

ルーチェも
小さく
笑う。

それが、
二人の
合図に
なった。

「店、
忙しそう
ですね」

「ええ、
ありがたい
ことに」

会話は、
途切れない。

無理に
話題を
探さなくても、
沈黙が
苦にならない。

それが、
不思議だった。

昼前。

急患が
入った。

転倒した
冒険者。

出血が
多い。

「……手を
貸します」

ケリーが、
迷いなく
動いた。

包帯を
渡し、
患者を
支える。

動きは
慣れて
いる。

「護衛を
していたと
言いましたよね」

「ええ」

短い
返事。

ヒール、
ミドルヒール。

治癒の
光が
連続して
走る。

無事、
処置は
終わった。

冒険者は、
何度も
頭を
下げて
帰っていく。

「助かりました」

「こちらこそ」

その
やり取りを
見て、
ルーチェは
気づく。

ケリーは、
人を
支える
側の
人間だ。

目立たず、
前に
出ず、
それでも
確実に。

自分と、
似ている。

夕方。

店を
閉める
時間。

外は、
茜色に
染まって
いた。

「……今日は
ありがとう
ございました」

「いえ」

ケリーは、
少し
迷う
ように
立ち止まる。

「ルーチェさん」

呼び止め
られ、
振り返る。

彼は、
真剣な
表情を
していた。

逃げない
目。

「少し、
話しても
いいですか」

「……はい」

二人は、
店の
前に
並んで
立つ。

通りには、
人影は
少ない。

静かな
時間。

ケリーは、
拳を
握りしめ、
一度
息を
整えた。

「焦って
いるのは、
自覚
しています」

前置き。

「でも、
言わないと
後悔
する」

声は、
低く、
揺れて
いない。

「俺は、
あなたが
好きです」

言葉は、
短い。

逃げ道の
ない
告白。

ルーチェの
胸が、
大きく
鳴った。

「……」

すぐに
答えは
出ない。

過去が、
よぎる。

ロバートの
背中。

王女の
微笑み。

選ばれ
なかった
記憶。

「……私」

声が、
震えそうに
なる。

「恋は、
もう
しないと
決めました」

正直に
言う。

逃げずに。

ケリーは、
頷いた。

「知って
います」

「それでも、
気持ちは
変わりません」

押し付け
ない。

否定も
しない。

ただ、
差し出す
だけ。

「今すぐ
答えが
欲しい
わけじゃ
ありません」

「そばに
いて
いいと
思える
存在に
なりたい」

胸の
奥が、
じんわり

温かく
なる。

選ばせて
くれる。

縛らない。

それは、
今の
自分に
必要な
距離だった。

「……私、
自分の
ことで
精一杯
です」

「店も、
仕事も」

「誰かを
優先
できる
余裕は
ありません」

「それで
いい」

即答。

「俺は、
待てます」

「待つ
ことしか
できない
立場だと
思っています」

その
言葉に、
涙が
込み上げ
そうに
なる。

愛される
ことが、
こんなに
静かで
優しい
ものだとは
知らなかった。

「……ケリーさん」

名前を
呼ぶ。

「今は、
返事は
できません」

「でも」

一度、
言葉を
切る。

「あなたが
いてくれる
ことは、
嫌じゃ
ないです」

それは、
精一杯の
本音。

ケリーは、
ゆっくり
微笑んだ。

「それで
十分です」

「今日は、
それだけで」

彼は、
一歩
下がり、
頭を
下げる。

「告白を
受け取って
くれて
ありがとう
ございます」

その姿に、
胸が
締め付け
られる。

扉を
閉め、
鍵を
かける。

夜風が、
二人の
間を
通り抜ける。

「……また、
明日」

「はい」

短い
約束。

ケリーは、
通りの
向こうへ
歩いていく。

ルーチェは、
その
背中を
見送った。

恋は、
しない。

けれど。

誰かと
並んで
歩く
未来を、
完全に
否定
しなくても
いい。

そう
思えた
夜だった。

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