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第一話 Aランクの不都合な現実
しおりを挟むAランク冒険者、ジャン。
その称号は、街の中では思ったほど役に立たなかった。
朝のボミタス冒険者ギルドは、いつもより騒がしい。
掲示板の前には人だかりができ、酒場からは笑い声が漏れてくる。
ジャンは、その端に立っていた。
「……あれが、例のAランクか?」
ひそひそとした声が、耳に届く。
悪意はない。だが、好奇の視線が突き刺さる。
ジャンは背筋を伸ばし、何も聞こえなかったふりをした。
実際のところ、彼は昨日も荷運びを断られている。
理由は単純だった。
「途中で倒れられたら困るからな」
そう言われた。
◆
「ジャンさん、おはようございます」
受付カウンターの向こうで、ポーリンが微笑む。
だが、その表情にはわずかな気遣いが滲んでいた。
「今日は高ランク合同の討伐依頼があります。
一応……推薦は入っているんですが」
「一応、ですか」
「はい……地上移動が長くて」
ジャンは、苦笑した。
地上では弱い。
その事実は、Aランクになっても変わらない。
むしろ、期待値が上がった分、落差が大きい。
「参加します」
ジャンは即答した。
断れば、「やはり」と言われるだけだ。
◆
集合場所は、街道の外れだった。
集まったのは、BランクとAランク混成の五人。
全員が装備も体格も揃っている。
ジャンだけが、場違いに見えた。
「……本当に、あのジャンか?」
「深層帰りの、って噂の?」
小声が交わされる。
隊長格の男が前に出た。
「地上移動は十キロ。
途中で休憩は取らん」
「問題ありません」
ジャンは答えた。
問題があると知っていても。
出発から一時間。
足が、重くなる。
二時間。
呼吸が浅くなった。
三時間目で、限界が来た。
「……すみません」
膝をついた瞬間、空気が凍る。
「やっぱり、か」
誰かが、ため息をついた。
誰も責めてはいない。
だが、その沈黙が何より痛かった。
◆
討伐自体は成功した。
魔物も、想定内だった。
ジャンは、戦闘中も役に立てなかった。
地上では、体がついてこない。
帰路、誰も彼に声をかけなかった。
◆
ギルドに戻ったジャンは、静かに報告を終えた。
「……以上です」
ガドルは、黙って書類に目を通す。
「結果は問題ない。
だが、評判は落ちた」
「承知しています」
「それでも、潜るか?」
顔を上げたガドルの視線は、真剣だった。
ジャンは、少しだけ考えた。
「はい」
答えは、最初から決まっている。
「地上で役に立たないなら、
深層で役に立てばいい」
ガドルは、短く笑った。
「……それができるのは、お前だけだ」
◆
その夜。
ジャンは、一人でダンジョンの入口に立った。
地上では、弱い。
誰かと組めば、足を引っ張る。
だが、ここなら違う。
深く、暗く、魔素に満ちた場所。
ここでは、自分は強い。
「……選ぶしかないな」
仲間か、深層か。
ジャンは、迷わず一歩を踏み出した。
Aランク冒険者としての現実は、
ここから、より厳しく、そして孤独になっていく。
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