2 / 10
第二話 パーティに向かない男
しおりを挟むジャンが「Aランク」であることは、書類の上では疑いようがなかった。
だが現場では、その称号がむしろ距離を生む。
「今回は短期の合同だ。問題ないだろう」
そう言って声をかけてきたのは、Bランクの女剣士だった。
肩までの赤毛を束ね、無駄のない装備をしている。
彼女の提案で、即席の三人パーティが組まれた。
もう一人は弓使いの男。
二人とも、ジャンの噂は知っているらしい。
「深層で強いんだって?」
「はい。ただし……」
「地上では弱い、だろ」
言葉は軽いが、目は真剣だった。
「確認だ。
移動、索敵、撤退判断。
どこまで任せられる?」
ジャンは、正直に答えた。
「移動は、遅れます。
索敵は補助程度。
撤退判断は……皆さんに従います」
一瞬の沈黙。
「戦闘は?」
「ダンジョン内であれば、問題ありません」
女剣士は、小さく息を吐いた。
「……賭けだな」
◆
浅層ダンジョン。
魔素は薄く、空気は乾いている。
ジャンの体は、重かった。
歩幅を合わせようとするたびに、筋肉が軋む。
息が乱れ、集中が切れそうになる。
「無理するな」
弓使いが声をかけた。
「してません。これが……限界です」
嘘ではなかった。
戦闘に入ると、状況はさらに悪化した。
魔物は弱い。
だが、その「弱さ」に、ジャンの体が追いつかない。
剣を振る速度が遅れる。
回避が一拍遅れる。
「下がれ!」
女剣士の声が飛ぶ。
ジャンは従った。
従うしかなかった。
◆
討伐後、休憩。
三人は岩に腰を下ろした。
「……正直に言う」
女剣士が口を開く。
「君は、足を引っ張っていない。
だが、戦力にもなっていない」
「はい」
「一緒に潜るなら、深層限定だ。
それ以外では……」
「組まない方がいい」
弓使いが、続きを口にした。
言いにくそうだったが、目は逸らさなかった。
「俺たちは、仲間を守るために動く。
だが君は、守られる側になる」
ジャンは、うなずいた。
「それは、嫌です」
その言葉は、思ったよりも強く出た。
二人は、少し驚いた顔をした。
「僕は、役に立ちたい。
ただ生き残るために、誰かの負担になるのは……違う」
沈黙が落ちる。
「……潔いな」
女剣士は、苦笑した。
◆
帰還後、三人は自然と別れた。
険悪ではない。
むしろ、理解があった。
だからこそ、余計に胸に残る。
ギルドの掲示板前で、ジャンは立ち止まった。
パーティ募集の紙。
どれも、条件が細かい。
「地上移動可」
「継続行動可能」
「役割分担明確」
自分は、どれにも当てはまらない。
◆
「……向いてないんだろうな」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
そのとき、背後から低い声がした。
「気づくのが早いな」
振り返ると、ガドルが立っていた。
「パーティ向きじゃない。
だが、それは欠点じゃない」
「……慰めですか」
「事実だ」
ガドルは、真っ直ぐに言う。
「役割が違うだけだ。
全員が横並びで戦う必要はない」
ジャンは、少し考えた。
「一人で潜る、という役割ですか」
「ああ」
ガドルは、短くうなずく。
◆
その夜、ジャンは装備を整えた。
軽量化した鞄。
最低限の回復薬。
誰かと分け合う前提ではない。
「……一人でいい」
強がりではない。
納得だった。
地上では弱い。
パーティには向かない。
だが、深層では違う。
必要とされる場所で、必要な役割を果たす。
それでいい。
ジャンは、ダンジョンの闇を見つめた。
孤独は、まだ怖い。
だが、逃げる理由にはならなかった。
彼は静かに、地下へと足を向ける。
――一人で潜る冒険者として。
0
あなたにおすすめの小説
天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない
戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」
辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――!
現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、
中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。
怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として
荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。
だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、
貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。
『良領主様』――いや、『天才王子』と。
領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、
引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい!
「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」
社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく!
――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚!
こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています
是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい
おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略
神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。
そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。
これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる