4 / 6
第4章:伝説のゴブリン退治
しおりを挟む朝日がアメルダ町の屋根を黄金色に染める頃、
セレス・グレインは今日のクエストに胸を躍らせていた。
今回の依頼は、Fランクを卒業し、次のEランク昇格を見据えた
「伝説のゴブリン退治」である。
伝説と聞くだけで多くの冒険者が尻込みする案件だが、
セレスは相変わらず無邪気に構えていた。
「ゴブリンか……掃除して、仲良くなれば大丈夫だよね!」
彼はそう呟き、背中のリュックを確認した。
中には雑巾、ほうき、そして小型の掃除用具がぎっしり詰まっている。
戦闘用の武器は一切ないが、セレスにとってはそれもまた、
冒険の武器となるはずだった。
ギルドマスターのヤコブは、今日のクエストに向かうセレスを見送る際、
眉をひそめた。
「掃除でゴブリンを……本当に何とかなると思っているのか?」
「大丈夫です! 僕の掃除スキルなら!」
無邪気に答えるセレスに、ヤコブはため息をついた。
### ゴブリンの巣へ
森を抜け、グレイン森の奥深くにあるゴブリンの巣に到着したセレス。
巣は想像以上に荒れており、ゴブリンたちが散らかしたゴミや落ち葉、
壊れた道具が散乱していた。
普通の冒険者なら戦闘準備を整え、警戒しながら進むところだ。
だがセレスにとって目に入るのは、「掃除ポイント」のみだった。
「ふむ……ここはほこりが多いな。
まずは床をきれいにして……」
ほうきを手に、巣の隅々を掃き始める。
ゴブリンたちは最初こそ警戒していたが、
セレスの無邪気な動きと掃除行為に次第に興味を持ち始めた。
「な、何してるんだ……?」
小型のゴブリンが首を傾げる。
セレスは振り返り、にこやかに手を振った。
「掃除ですよ! 汚れたままだと気持ちよくないでしょ?」
ゴブリンたちは次第に警戒心を解き、セレスの周りに集まる。
彼は驚かず、むしろ楽しそうにゴブリンの足元や手に付いた泥を拭き取る。
---
### 勘違いの戦術
巣の奥に進むと、いよいよリーダー格の大型ゴブリンが現れた。その姿は威圧的で、普通の冒険者なら全力で戦うレベルだ。セレスは少しだけ立ち止まり、深呼吸する。
「……ここも、掃除すればきっと仲良くなれる!」
彼は大型ゴブリンの足元の落ち葉や泥を丁寧に掃除し始めた。ゴブリンは当初、セレスを襲おうとしたが、足元がきれいになる感覚に戸惑い、動きを止める。セレスは無邪気に話しかける。
「よしよし、気持ちいいでしょ? 掃除って楽しいよね!」
大型ゴブリンは、理解できないながらも徐々に落ち着き、セレスの行動に従順になっていく。周囲の小型ゴブリンも興味津々で掃除を手伝うように見える。まるで「掃除大会」に巻き込まれたかのような光景だった。
---
### クエスト成功への道
巣全体を掃除し終えた頃、ゴブリンたちは完全に落ち着き、リーダー格の大型ゴブリンはセレスを見上げて無言で頷く。セレスはにっこり笑いながら、巣の中央に置かれた壊れた道具や散らかった家具を整頓する。
「これで全部きれいになったね!」
その瞬間、森の中に現れたギルドの調査隊が状況を確認する。彼らは目を見開き、口をぽかんと開けた。
「何だ……これは……掃除でゴブリンを……制圧……?」
「いや、もう戦闘なしで終わってる……」
セレスは無邪気に答える。
「はい! 掃除スキルでゴブリンと仲良くなりました!」
ギルド調査隊は報告書に「クエスト成功」と記入し、セレスの評価は大幅に上がった。EランクからDランクへの昇格もほぼ確実だという。
---
### 村人への思い
帰路、セレスは森を抜けるとき、ふと思い出した。故郷のフェリウス村で、毎日ほこりと落ち葉と戦っていた自分の姿を思い返す。あの頃の掃除の経験が、まさかゴブリン退治に役立つとは、夢にも思わなかった。
「掃除って……すごいな。僕の小さな努力が、誰かの役に立つんだ」
彼は胸の中で静かに感動する。そして、次なるクエストに向けて心を躍らせた。
---
### ギルドでの反響
町に戻ると、セレスの伝説的な「掃除ゴブリン退治」の話は瞬く間に広がった。受付嬢リンスは微笑みながら報告書を受け取り、マールは目を輝かせて話しかけた。
「セレス、あなた、ほんとにすごいわ!」
「掃除だけでクエストをクリアするなんて……!」
ギルドマスターのヤコブも、半ばあきれつつ、しかし評価を隠せない。
「……農民のくせに、恐るべき掃除力だな」
セレスは照れくさそうに頭をかきながらも、胸の中で小さな誇りを感じる。FランクからEランクへのステップが、着実に見えてきた瞬間だった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる