地上最弱、深層最強④――深層戦争

塩塚 和人

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第五話 街が選んだ答え

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 朝の街は、静かすぎた。

     ◆

 人通りはある。
 店も開いている。

 だが、空気が違う。

     ◆

 ジャンが歩くと、
 視線が、わずかに逸らされる。

     ◆

「……」

 声をかける者はいなかった。

     ◆

 冒険者ギルド、ボミタス支部。

 扉を開けた瞬間、
 ざわめきが一度止まる。

     ◆

 すぐに、再開した。

 だが、その内容は変わっている。

     ◆

「管理者様、来たぞ」

「小声で話せ」

     ◆

 ジャンは、受付へ向かった。

 ポーリンが、困ったように笑う。

     ◆

「……クエストの受注数、
 減っています」

     ◆

「理由は?」

     ◆

「境界異常域の再封鎖で、
 不満が出ていて」

     ◆

 予想通りだった。

     ◆

 ガドルが、奥から出てくる。

 その表情は、
 いつもより険しい。

     ◆

「街が、割れた」

     ◆

 それだけで、十分だった。

     ◆

「境界破壊者に賛同する連中が、
 表に出始めている」

     ◆

「理由は、力だ」

     ◆

 ジャンは、静かに頷く。

     ◆

「彼らは言っている」

     ◆

「選ぶ権利を奪われた、と」

     ◆

 ギルドの一角。

 数人の冒険者が、
 はっきりとこちらを睨んでいた。

     ◆

「……あいつが」

     ◆

「俺たちの可能性を、
 潰した」

     ◆

 聞こえるように、言う。

     ◆

 ジャンは、足を止めた。

     ◆

「違う」

     ◆

 静かな声。

     ◆

「可能性を、
 守った」

     ◆

 即座に、反発が返る。

     ◆

「守る?」

     ◆

「俺たちは、
 強くなれたんだ!」

     ◆

「深層に行ける力を、
 得たんだぞ!」

     ◆

 ジャンは、目を伏せる。

     ◆

 知っている。

 それが、どれほど魅力的か。

     ◆

「……その先を、
 考えたか」

     ◆

「考える必要があるか?」

     ◆

「今、強い」

     ◆

 その言葉が、
 すべてだった。

     ◆

 話は、噛み合わない。

     ◆

 彼らが見ているのは、
 “今”。

 ジャンが見ているのは、
 “続き”。

     ◆

 昼過ぎ。

 街の広場に、人が集まり始めた。

     ◆

 境界破壊者の支持者たちだ。

     ◆

「選択を返せ!」

     ◆

「力を、
 俺たちに!」

     ◆

 その中心に、
 見覚えのある顔がいた。

     ◆

 元・中堅冒険者。

 かつて、深層挑戦で挫折した男。

     ◆

「管理者」

 男は、ジャンを見て言う。

     ◆

「俺たちは、
 もう待たない」

     ◆

「力を得る道を、
 選ぶ」

     ◆

「それが、
 街の答えだ」

     ◆

 拍手が起きた。

     ◆

 ジャンは、群衆を見る。

     ◆

 賛同。
 期待。
 焦り。

     ◆

 そこに、
 未来への想像はなかった。

     ◆

「……わかった」

     ◆

 短く、答える。

     ◆

 男が、勝ち誇ったように笑う。

     ◆

「だが」

     ◆

 ジャンは、続けた。

     ◆

「俺は、
 止める」

     ◆

「この街が、
 壊れる前に」

     ◆

 広場が、静まり返る。

     ◆

「敵になるってことか?」

     ◆

 ジャンは、首を横に振る。

     ◆

「違う」

     ◆

「俺は、
 最後まで管理者だ」

     ◆

 拍手は、起きなかった。

     ◆

 代わりに、
 明確な距離が生まれた。

     ◆

 その日から。

     ◆

 街は、二つの顔を持つようになる。

     ◆

 境界を守る者。

 境界を壊す者。

     ◆

 そして、
 どちらにも属さない管理者。

     ◆

 ジャンは、独りになった。

     ◆

 だが。

     ◆

 その背中は、
 揺れていなかった。

     ◆

「……選ばれなくても」

     ◆

 小さく呟く。

     ◆

「俺は、
 やる」

     ◆

 街が選んだ答えは、
 まだ途中だ。

     ◆

 その結末を、
 見届ける者は――

 ジャンしか、いない。
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