地上最弱、深層最強④――深層戦争

塩塚 和人

文字の大きさ
6 / 10

第六話 管理者狩り

しおりを挟む

 最初の違和感は、音だった。

     ◆

 宿を出た瞬間、
 街のざわめきが、背後で途切れた。

     ◆

 誰も、近づいてこない。

     ◆

 ジャンは、足を止めなかった。

     ◆

 地上。
 魔素は薄い。

 今の自分は、
 最弱に近い。

     ◆

「……来るな」

     ◆

 そう願った直後。

     ◆

 路地の奥で、
 靴音が重なった。

     ◆

 前。
 横。
 背後。

     ◆

 囲まれている。

     ◆

「管理者様」

 軽い声。

     ◆

 姿を現したのは、
 五人。

 冒険者装備。

     ◆

 だが、目が違う。

     ◆

「用件を言え」

     ◆

「簡単だ」

 男は笑う。

     ◆

「街から、
 消えてもらう」

     ◆

 ジャンは、深く息を吸った。

     ◆

「……誰の指示だ」

     ◆

「聞くまでもないだろ」

     ◆

 境界破壊者。

 もしくは、その支持者。

     ◆

「ここで抵抗されると、
 困る」

     ◆

「静かに、
 連れて行く」

     ◆

 剣が抜かれる。

     ◆

 ジャンは、後退した。

     ◆

 勝てない。

 正面からは。

     ◆

 地上では、
 体が重い。

     ◆

 だが。

     ◆

「……逃げる」

     ◆

 即断。

     ◆

 路地を抜け、
 人通りの少ない方へ走る。

     ◆

「追え!」

     ◆

 背後から、
 魔法の詠唱音。

     ◆

 火球が、壁を焦がす。

     ◆

「っ!」

     ◆

 転がり、
 立ち上がる。

     ◆

 息が、荒い。

     ◆

「管理者狩り、か」

     ◆

 そういうことだ。

     ◆

 境界を守る者は、
 邪魔だ。

     ◆

 だから、消す。

     ◆

 街の外れ。

 廃倉庫が見えた。

     ◆

 飛び込む。

     ◆

 中は、薄暗い。

     ◆

 ジャンは、壁に背をつけた。

     ◆

「……ここまで、か」

     ◆

 その時。

     ◆

 床に、
 淡く光る線が走った。

     ◆

「これは……」

     ◆

 魔素流路。

 地下へ続く、
 古い採掘坑だ。

     ◆

 入口は、崩れている。

     ◆

 だが、
 魔素は――濃い。

     ◆

 追っ手が、
 倉庫に入ってくる。

     ◆

「逃げ場はないぞ!」

     ◆

 ジャンは、
 小さく笑った。

     ◆

「……あるさ」

     ◆

 床を蹴り、
 崩落箇所へ飛び込む。

     ◆

 瓦礫が、崩れる。

     ◆

「追うな!」

     ◆

 だが、遅い。

     ◆

 地下。

     ◆

 空気が、変わった。

     ◆

 魔素が、
 一気に体へ流れ込む。

     ◆

「……来た」

     ◆

 力が、戻る。

     ◆

 筋肉が、軽い。

 視界が、澄む。

     ◆

 背後から、
 追っ手が降りてくる。

     ◆

「っ、動きが……!」

     ◆

 ジャンは、振り向いた。

     ◆

 目が合う。

     ◆

「悪いな」

     ◆

「ここから先は」

     ◆

「俺の、
 領域だ」

     ◆

 一歩。

     ◆

 踏み出した瞬間。

     ◆

 地面が、砕けた。

     ◆

「な――」

     ◆

 次の瞬間、
 剣が弾かれ、
 男が吹き飛ぶ。

     ◆

「化け物か……!」

     ◆

 ジャンは、答えない。

     ◆

 ただ、叩き伏せる。

     ◆

 数分後。

     ◆

 地下は、静かになった。

     ◆

 倒れた冒険者たち。

 命は、取っていない。

     ◆

「……まだだ」

     ◆

 これは、始まりに過ぎない。

     ◆

 管理者狩りは、
 街公認になりつつある。

     ◆

 ジャンは、
 闇の奥を見る。

     ◆

「なら」

     ◆

「俺も、
 やり方を変える」

     ◆

 地上では、弱者。

 地下では、
 誰も手を出せない存在。

     ◆

「……狩られる側から」

     ◆

「狩る側へ」

     ◆

 魔素が、
 静かに応えた。

     ◆

 境界破壊者。

 次は、
 お前の番だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...