地上最弱、深層最強④――深層戦争

塩塚 和人

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第七話 地下に築く居場所

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 地下は、静かだった。

     ◆

 魔素の流れが、一定だ。
 濃く、重く、そして――落ち着く。

     ◆

 ジャンは、岩壁に背を預けて座り込んだ。

 呼吸を整える。

     ◆

 力は、満ちている。

 身体は、思い通りに動く。

     ◆

「……皮肉なものだ」

     ◆

 地上に居場所はなく、
 地下にこそ、安らぎがある。

     ◆

 倒れた冒険者たちは、
 すでに拘束してある。

 意識も、安定している。

     ◆

 殺さなかった。

 殺せなかった。

     ◆

 それが、
 自分の限界だと、理解している。

     ◆

「ここを……」

     ◆

 ジャンは、周囲を見渡した。

 旧採掘坑。

 人の手で掘られ、
 今は捨てられた場所。

     ◆

 だが。

     ◆

 魔素は、生きている。

     ◆

「拠点にする」

     ◆

 言葉にした瞬間、
 覚悟が固まった。

     ◆

 地上に戻れば、
 再び狙われる。

 守るべき街から、
 拒絶される。

     ◆

 ならば。

     ◆

 戻らなければいい。

     ◆

 ジャンは、立ち上がる。

     ◆

 まずは、安全の確保。

 魔物の巣を潰し、
 通路を整理する。

     ◆

 体は、軽い。

 剣は、迷わない。

     ◆

 数刻後。

     ◆

 坑道の奥は、
 簡易だが、生活可能な空間になっていた。

     ◆

 火を灯し、
 水脈を確認し、
 空気の流れを調整する。

     ◆

 管理者としての知識が、
 ここで生きた。

     ◆

「……皮肉じゃないな」

     ◆

「全部、
 繋がっている」

     ◆

 ふと、足音が聞こえた。

     ◆

 警戒。

     ◆

 だが、
 現れたのは――

     ◆

「……ジャン?」

     ◆

 聞き覚えのある声。

     ◆

「ポーリン?」

     ◆

 受付嬢のポーリンが、
 不安そうに立っていた。

     ◆

「ここにいるって、
 噂で……」

     ◆

 ジャンは、言葉を失う。

     ◆

「どうして……」

     ◆

「心配だったんです」

     ◆

 彼女は、
 小さく笑った。

     ◆

「街では、
 あなたの悪い話ばかりで」

     ◆

「でも……」

     ◆

「私、
 知ってますから」

     ◆

「あなたが、
 何をしてきたか」

     ◆

 胸が、
 少しだけ軽くなる。

     ◆

「ここは、
 危険だ」

     ◆

「知ってます」

     ◆

「だから、
 来ました」

     ◆

 ポーリンは、
 鞄を下ろす。

     ◆

「ギルドに残っても、
 できることは少ないです」

     ◆

「でも、
 ここなら」

     ◆

「手伝えます」

     ◆

 ジャンは、
 しばらく黙った。

     ◆

 そして、
 ゆっくり頷く。

     ◆

「……歓迎する」

     ◆

 それは、
 久しぶりに口にする言葉だった。

     ◆

 その夜。

     ◆

 地下拠点に、
 小さな灯りが増えた。

     ◆

 食事は質素。

 会話も、少ない。

     ◆

 だが。

     ◆

 ここには、
 敵意がない。

     ◆

 裏切りもない。

     ◆

 ジャンは、
 火を見つめながら考える。

     ◆

 守るべきものは、
 街だけじゃない。

     ◆

 守る仕組みを、
 作らなければならない。

     ◆

 境界破壊者は、
 力をばら撒く。

     ◆

 ならば、自分は――

     ◆

「境界を、
 正しく使う者を育てる」

     ◆

 独り言のように呟く。

     ◆

 地下に築いたのは、
 逃げ場ではない。

     ◆

 反撃のための居場所だ。

     ◆

 ジャンは、
 静かに拳を握る。

     ◆

 この場所から、
 世界を“戻す”。

     ◆

 選ばれなかった管理者の、
 本当の戦いが――

     ◆

 ここから、始まる。
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