地上最弱、深層最強④――深層戦争

塩塚 和人

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第八話 地下ギルド誕生

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 地下拠点に、人の気配が増え始めた。

     ◆

 最初は、一人だった。

     ◆

 深層探索帰りの若い冒険者。
 装備は傷だらけで、表情は疲弊している。

     ◆

「……ここ、噂の場所ですか」

     ◆

 ジャンは、頷いた。

     ◆

「管理者がいるって」

     ◆

「噂だけだ」

     ◆

 そう返すと、男は苦笑した。

     ◆

「でも、力は本物だ」

     ◆

「地下で、生き方を教えてくれるって」

     ◆

 ジャンは、即答しなかった。

     ◆

 ここは、隠れるための場所だ。
 人を集めるつもりはなかった。

     ◆

 だが。

     ◆

 男の目には、焦りと覚悟が混じっていた。

     ◆

「地上では、もう無理なんです」

     ◆

「境界破壊者側につかないなら、
 仕事も回ってこない」

     ◆

「でも……」

     ◆

「命を賭けるなら、
 ちゃんとした場所がいい」

     ◆

 ジャンは、視線を逸らした。

     ◆

 その言葉は、
 自分が失ったものと重なる。

     ◆

「……条件がある」

     ◆

 男の顔が、引き締まる。

     ◆

「力だけを求める者は、
 帰れ」

     ◆

「ここでは、
 境界を守る」

     ◆

「守れないなら、
 力は与えない」

     ◆

 男は、一瞬黙り込み、
 やがて深く頭を下げた。

     ◆

「お願いします」

     ◆

 それが、始まりだった。

     ◆

 二人目。
 三人目。

     ◆

 共通しているのは、
 地上で居場所を失った者たち。

     ◆

 深層に潜る覚悟はあるが、
 無茶はしない。

     ◆

 ジャンは、彼らを選別した。

     ◆

 境界破壊者の思想に染まっていないか。
 力に溺れていないか。

     ◆

 管理者としての目が、
 ここで生きる。

     ◆

 訓練は、地味だった。

     ◆

 魔素の流れを感じ取る。
 自分の限界を知る。
 無理をしない撤退判断。

     ◆

「強くなる前に、
 死なないことを覚えろ」

     ◆

 ジャンの言葉は、厳しい。

     ◆

 だが、誰も文句は言わなかった。

     ◆

 数日後。

     ◆

 ポーリンが、帳簿を手に言った。

     ◆

「……これ、もう」

     ◆

「ギルドですね」

     ◆

 ジャンは、眉をひそめる。

     ◆

「名乗るつもりはない」

     ◆

「でも」

     ◆

「依頼の分配。
 物資管理。
 探索記録」

     ◆

「全部、
 ギルドの仕事です」

     ◆

 ジャンは、沈黙した。

     ◆

 否定したかった。

     ◆

 だが。

     ◆

 この場所は、
 すでに“組織”になりつつある。

     ◆

「……名前は」

     ◆

「いりません」

     ◆

「地下ギルドで、
 十分です」

     ◆

 その呼び方は、
 自然に広まった。

     ◆

 地上ギルドに属さない。
 境界破壊者にも与しない。

     ◆

 第三の場所。

     ◆

 数日後。

     ◆

 噂は、街に届く。

     ◆

「管理者が、
 地下で仲間を集めている」

     ◆

「力を制限する代わりに、
 生き残らせるらしい」

     ◆

 嘲笑も、あった。

     ◆

「臆病者の集まりだ」

     ◆

 だが。

     ◆

 地下ギルドからの死者は、
 一人も出ていなかった。

     ◆

 ジャンは、灯りの下で地図を見る。

     ◆

 魔素の歪み。
 境界破壊者の活動地点。

     ◆

「……来るな」

     ◆

 そう呟いた時。

     ◆

 空気が、わずかに揺れた。

     ◆

 不穏な魔素反応。

     ◆

 深層方向。

     ◆

「来たか」

     ◆

 地下ギルド誕生を、
 境界破壊者が見逃すはずがない。

     ◆

 ジャンは、立ち上がる。

     ◆

 守る場所が、できた。

     ◆

 なら。

     ◆

 今度は、
 守るために戦う。

     ◆

 地下ギルドの灯りは、
 まだ小さい。

     ◆

 だが。

     ◆

 闇の中では、
 確かに見える光だった。
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