地上最弱、深層最強④――深層戦争

塩塚 和人

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第10話 魔素の海を越えて

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朝の光がボミタスの街を優しく照らす。

冒険者ギルドの広間には、いつものように
冒険者たちのざわめきが響いていた。

ジャンは重厚な木製のテーブルに腰を下ろし、手元の地図を眺める。

昨日まで潜っていたダンジョンの奥深くで得た経験が、

体の隅々まで染み渡っているようだった。

「ジャン、今日もクエストに行くのか?」ポーリンの明るい声が、

彼の思考を遮った。

「うん、少しでもAランクの信頼を固めたいんだ。」
ジャンは少し照れくさそうに笑った。

彼の表情には、地上では弱々しい少年だった面影はほとんど残っていない。

ダンジョンの魔素に浸かるたびに鍛えられ、

体力も反応速度も格段に上がっていた。

「それにしても、マスターも今日は珍しく静かね。」

ポーリンは視線をギルドマスターのガドルに向けた。

ガドルはいつも通りの落ち着いた佇まいだが、

目の奥には戦士としての緊張感が漂っていた。

ジャンは深呼吸を一つすると、荷物をまとめてギルドの出口に向かった。

今日のクエストは、「魔素の海」と呼ばれる禁域の洞窟に潜入し、

そこで暴れまわる巨大魔獣の討伐だ。

Fランク時代には到底挑めなかった難易度だが、

今のジャンならばきっとやり遂げられる。

そう自分に言い聞かせながら、彼は胸の高鳴りを抑えた。

洞窟の入口に到着すると、薄暗い空気と湿った岩肌が立ち込める。

魔素の匂いが鼻を突き、ジャンの体は自然と反応した。

彼のスキル「体質改善」が目覚める瞬間だ。

魔素が濃いこの洞窟では、ジャンの力は地上の数倍に跳ね上がる。

「さあ、行こう。」彼は小さくつぶやくと、慎重に足を進めた。

洞窟の奥へ進むにつれて、光はほとんど届かなくなり、

壁に反射する魔素の光だけが淡く輝いていた。

地面には不規則に魔素の結晶が点在し、

その上を踏むたびに微かな振動が伝わる。

ジャンは一歩一歩、呼吸を整えながら進んだ。

やがて、洞窟の中心に巨大な魔獣が姿を現す。

体長は軽く十メートルを超え、全身から濃密な魔素を放出していた。

牙をむき出しにして唸るその姿に、

普通の冒険者なら恐怖で動けなくなるだろう。

しかし、ジャンは恐怖を力に変えることを覚えていた。

「来い…!」ジャンは力強く叫び、

魔素に満ちた体を使って飛びかかった。

拳が触れた瞬間、魔素の影響で体は一瞬にして倍以上の速度を発揮する。

魔獣の攻撃を避けながら、的確に打撃を加えていく。

体の感覚は研ぎ澄まされ、すべてが計算されているかのように正確だった。

戦いは熾烈を極めた。魔獣の攻撃は猛々しく、

幾度も危険な瞬間が訪れたが、ジャンは冷静に対応した。

魔素が彼の力を引き上げ、攻撃も防御も、

通常の冒険者の比ではない精度で繰り出される。

体が痛みを感じる間もなく、魔獣の動きは次第に鈍くなった。

最後の一撃を放つ瞬間、ジャンの心は静寂に包まれた。

拳が魔獣の胸に突き刺さると、眩い光とともに巨大な咆哮が響き渡った。

魔獣は崩れ落ち、洞窟の奥は静けさを取り戻す。

勝利を確信したジャンは深く息を吐き、手元の結晶から力を抜いた。

体は徐々に地上の魔素に戻り、再び通常の力に戻る。

だが、胸の奥には確かな自信と誇りが芽生えていた。

ギルドに戻ると、ポーリンやガドルたちが拍手で迎えてくれた。

ジャンは少し照れくさそうに頭を下げながらも、笑顔を隠せなかった。

Aランクまでの道のりはまだ続く。

だが、今日の戦いは、ジャンがさらなる高みへと進むための確かな一歩となった。

夜、ギルドの屋上で月光に照らされるジャンは、静かに呟いた。

「まだまだ、これからだ…。」

その瞳は、次なる冒険への決意に輝いていた。

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