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第2話 探索者ギルドという居場所
しおりを挟む目を覚ましてから、何度目の天井だろう。
白い照明が規則正しく並ぶ室内で、ライムは静かに息を吐いた。
身体の痛みは、ほとんど消えている。だが、胸の奥に残る違和感だけは消えなかった。
――ここは、異世界じゃない。
それだけは、はっきりしている。
「調子はどう?」
カーテンが引かれ、雨宮かなえが姿を見せた。
昨日と同じ、動きやすさを重視した装備。戦う者の服装だ。
「……問題ない」
「そう。なら話を進めるわ」
雨宮は簡易椅子に腰を下ろし、端末を操作する。
透明な画面が空中に投影され、文字や図が流れ始めた。
「まず、ここがどこか。
正式には――探索者ギルド、日本湾岸支部の医療区画」
「探索者ギルド……」
第1話で聞いた単語。
だが、その実態はまだよくわからない。
「五年前、世界中に突然“ダンジョン”が出現したの」
雨宮は淡々と語る。
「理由は不明。
中には魔物がいて、現実の法則とは違う現象が起きる」
「……異世界と、似ているな」
「そう。
だから最初は、世界中が混乱した」
雨宮の指が動き、年表が表示される。
「三年前、各国はダンジョン対策組織を設立。
日本では、それが探索者ギルド」
「二年前、ようやく安全な装備と手法が整って、
人がダンジョンに潜れるようになった」
ライムは、黙って聞いていた。
異世界での戦争。
魔族との戦い。
それとは違うが、どこか似ている。
「探索者は、ダンジョンに潜る専門職よ」
雨宮は視線を上げる。
「魔物の討伐、資源の回収、被害の防止。
命の危険もあるけど、その分、社会的な地位は高い」
「……俺は、その探索者じゃない」
ライムが言うと、雨宮は小さくうなずいた。
「ええ。
だから、問題なの」
◆
会議室は、思ったより狭かった。
長机を挟んで座るのは、三人。
雨宮かなえ。
スーツ姿の中年男性。
そして、ライム。
「私は支部副責任者の橘です」
名乗った男は、眼鏡越しにライムを観察していた。
「率直に言いましょう。
あなたの存在は、非常に厄介です」
「……そうだろうな」
ライムは否定しなかった。
異世界人。
しかも、魔法を使う。
この世界にとって、危険でないはずがない。
「異世界由来の存在は、過去にも報告例がある」
橘は資料をめくる。
「ただし、数は少なく、全て管理下に置かれている」
「俺も……そうなるのか?」
「原則としては、はい」
一瞬、胸が締めつけられた。
檻に入れられる。
監視される。
そんな未来が、頭をよぎる。
だが、橘は続けた。
「ただし、雨宮探索者の強い推薦がありました」
雨宮は口を挟まない。
だが、その背中はまっすぐだった。
「あなたは無防備な民間人ではない。
戦う力を持っている」
「危険でもあるが――使い方次第では、戦力になる」
橘は静かに言った。
「よって、仮の結論を出します」
◆
「仮登録探索者、ですか」
ライムは、渡されたカードを見つめていた。
プラスチック製の薄いカード。
名前欄には、カタカナで「ライム」と書かれている。
「正式登録じゃない。
身分も制限付き。
行動は、必ず管理下で行う」
雨宮が説明する。
「でも、ダンジョンに入ることはできる」
「……なぜ、そこまで?」
ライムの問いに、雨宮は少し考えてから答えた。
「あなたは戦う意志がある。
それに――」
彼女は、カードを指で軽く叩いた。
「ダンジョンは、優しくない。
戦えない人間を中に入れれば、死ぬ」
「あなたは、生き残る目をしてる」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
「感謝する」
雨宮は、ほんの少しだけ口角を上げた。
「礼は、仕事で返して」
◆
午後。
ライムは、初めて“探索者の訓練場”に足を踏み入れた。
広い屋内空間。
模擬魔物。
現代武装と魔法が入り混じる光景。
「うわ、本当に雷出た……」
「エフェクトじゃないよね?」
視線が集まる。
だが、雨宮が一歩前に出ると、空気が引き締まった。
「私の管理下。
無断撮影は禁止」
ライムは深く息を吸う。
「……雷よ」
小さな火花が、指先に灯った。
異世界では、当たり前だった光景。
だが、ここでは違う。
「制御は……できてる」
雨宮は冷静に評価する。
「出力は低いけど、質がいい」
その瞬間、また視界に光が浮かんだ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:2
魔力:低
耐久:低
敏捷:低
スキル
・雷魔法(初級)
※発動安定度:微上昇
――上がった。
たった一段階。
だが、確かに“成長”している。
「ライム」
雨宮が言う。
「ここは、戦う場所よ」
ライムは、拳を握った。
異世界に戻る道は、ないかもしれない。
だが、ここには――。
「……ここで、強くなる」
雨宮は、静かにうなずいた。
「歓迎するわ。
探索者ギルドへ」
雷魔法士ライムは、この日。
初めて“居場所”と呼べる場所に、足を踏み入れた。
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