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第3話 初めての現代ダンジョン
しおりを挟む湾岸区第七ダンジョン。
それが、ライムにとって初めて踏み込む“現代の戦場”だった。
人工島の中央に口を開ける巨大な構造物は、遠目には廃ビルの残骸のようにも見える。
だが、近づくにつれ、異様さがはっきりと伝わってきた。
空気が重い。
目に見えない圧が、肌を撫でる。
「緊張してる?」
隣を歩く雨宮かなえが、視線を向けてきた。
「……していないと言えば、嘘になる」
ライムは正直に答えた。
装備は最低限。
ギルドから貸与された防刃ジャケットと、簡易通信機。
異世界で使っていたローブとは、まるで勝手が違う。
「初回は浅層まで。
目的は戦闘経験と、あなたの適性確認」
雨宮の声は落ち着いている。
「無理はさせない。
危険だと判断したら、私が止める」
「……頼りにしている」
そう言うと、雨宮は少しだけ目を細めた。
「その言葉、嫌いじゃないわ」
◆
ダンジョンの内部は、外見とは別物だった。
コンクリートのような壁。
だが、触れれば冷たく、微かに脈打っている。
「……生きているみたいだな」
「正確には、“成長している”らしい」
そう答えたのは、少し後ろを歩く百瀬くるみだった。
短めの髪に、眼鏡。
手元の端末から、視線をほとんど上げない。
「ダンジョンは、内部構造を変化させる。
生態系を持つ、って表現されることもある」
「生態系……」
「簡単に言うと、
中で魔物が増えて、環境も変わるってこと」
専門用語を、かみ砕いて説明する口調。
理論派なのが、すぐにわかった。
「ライム、雷魔法を使うって聞いたけど」
「そうだ」
「いいデータが取れそう」
淡々と言われ、ライムは少し居心地が悪くなる。
◆
最初の魔物は、小型だった。
灰色の体毛を持つ、犬に似た魔物。
数は三。
「動くな」
雨宮の低い声が響く。
「ライム、一本だけでいい。
牽制して」
牽制。
異世界でも使われた言葉だ。
ライムは一歩前に出る。
「……雷よ」
詠唱は、ほとんど無意識だった。
指先から放たれた細い雷が、最前列の魔物を撃つ。
甲高い悲鳴。
魔物は弾かれるように後退した。
「効いてる!」
くるみが即座に反応する。
「貫通力、高い!
物理装甲、ほとんど無視してる!」
雨宮が合図を出す。
「今!」
連携は鮮やかだった。
雨宮と、別パーティの前衛が一気に距離を詰め、魔物を仕留める。
戦闘は、数十秒で終わった。
「……終わった、のか」
ライムは、自分の手を見つめる。
異世界の戦いより、ずっと短い。
だが、油断すれば死ぬ点は同じだ。
「初戦としては上出来」
雨宮は短く評価した。
「魔力消費は?」
「……少ない」
「なら、続行」
◆
進むにつれ、魔物の数が増えていく。
ライムは、後衛から雷を放ち続けた。
狙いは正確。
威力は控えめだが、確実に足止めできる。
「面白いわね」
休憩中、くるみが言った。
「雷って、派手なイメージだけど。
あなたのは、無駄がない」
「癖、みたいなものだ」
異世界では、魔力は貴重だった。
無駄撃ちは、死に直結する。
「現代ダンジョン向きかも」
その言葉が、胸に残った。
◆
浅層の奥で、少し大きな魔物が現れた。
人型に近い影。
手には、骨のような武器。
「……ゴブリン型」
雨宮が即座に判断する。
「知能がある。
動きに注意」
異世界でも、よく戦った相手だ。
「ライム、いける?」
「……問題ない」
雷を、少しだけ強める。
放たれた一撃は、魔物の腕を貫いた。
叫び声。
だが、次の瞬間――。
「伏せて!」
雨宮の叫び。
魔物が投げた武器が、壁に突き刺さる。
ほんの一瞬、判断が遅れていれば、ライムの頭だった。
心臓が跳ねる。
――危なかった。
だが、足は止まらなかった。
「……雷よ!」
今度は、連続で放つ。
二本、三本。
魔物は耐えきれず、崩れ落ちた。
◆
戦闘終了。
静寂が戻る。
そのときだった。
視界に、見慣れた光が浮かぶ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:3
魔力:低
耐久:低
敏捷:低
スキル
・雷魔法(初級)
※精度:上昇
※連続発動:可能
「……上がった」
確かな手応え。
雨宮が、ライムの肩を軽く叩いた。
「初ダンジョンでレベルアップ。
悪くない」
「……生きて帰れた」
それが、何よりだった。
ダンジョンの出口へ向かいながら、ライムは思う。
ここは、異世界じゃない。
だが、戦う理由はある。
まだ、ドラグは倒れていない。
そして――。
「強くなれる」
現代という世界で。
雷魔法士ライムは、
探索者としての一歩を、確かに踏み出した。
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