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第5話 未熟な探索者を救え
しおりを挟む湾岸区第七ダンジョン、浅層。
天井の低い通路に、緊張した空気が張りついていた。
湿った石の匂いと、魔物特有の生臭さが混じる。
「……っ」
久世ひまわりは、喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
視界の先には、小型魔物が三体。
数としては多くない。
だが、彼女の手はわずかに震えていた。
――落ち着け。
頭ではわかっている。
訓練もした。
マニュアルも叩き込まれた。
それでも、実戦の空気は違う。
「ひまわり、前に出すぎないで」
後方から、雨宮かなえの声が飛ぶ。
「射線を意識して。
独りで抱え込まない」
「は、はい!」
返事はした。
だが、足は思ったより前に出ていた。
◆
ライムは、少し後ろから全体を見ていた。
ひまわりの動きは、悪くない。
だが、余裕がない。
魔物が一体、別方向へ回り込む。
気づいていない。
「……危ない」
声に出すより早く、身体が動いた。
「――雷よ」
細い雷が走り、魔物の足元を撃つ。
直撃ではない。
だが、動きは止まった。
「え……?」
ひまわりが振り向いた瞬間、雨宮が前に出る。
「今!」
連携は、ぎりぎり間に合った。
魔物は倒れ、通路に静けさが戻る。
◆
戦闘後。
ひまわりは、壁にもたれて肩で息をしていた。
「ご、ごめんなさい……」
声が、震えている。
「私、前を見すぎて……」
「誰でも最初はそう」
雨宮は、厳しくも落ち着いた声で言った。
「問題は、気づけるかどうか」
ライムは、ひまわりの前に立つ。
「……怪我は?」
「だ、大丈夫です」
そう言いながら、彼女は視線を落とした。
「……私、向いてないんでしょうか」
その一言が、胸に刺さった。
異世界で、何度も聞いた言葉だ。
そして、自分も――。
「向いてるかどうかは、まだ決まってない」
ライムは、静かに言った。
「生きている。
それだけで、次がある」
ひまわりは、驚いたように顔を上げる。
◆
再開した探索は、順調だった。
だが、少し進んだ場所で、問題が起きる。
「……数が、多い」
前方に、六体以上の反応。
浅層としては、想定外だ。
「引くわよ」
雨宮が即断する。
だが、その瞬間――。
「きゃっ!」
ひまわりが足を滑らせた。
床の亀裂。
わずかな段差。
転倒した彼女の視界に、魔物が迫る。
「ひまわり!」
雨宮が駆け出す。
だが、距離がある。
間に合わない。
◆
ライムは、考える前に踏み出していた。
「――雷よ!」
いつもより、強く。
だが、狙いは魔物ではない。
床。
雷が走り、亀裂に沿って閃光が広がる。
電撃が地面を這い、魔物の動きを止める。
「……っ!」
同時に、ライムはひまわりの前に立った。
身体が、熱い。
魔力が、内側を流れる。
※身体強化:魔力を筋肉に巡らせ、反応速度を高める技術
意識していない。
だが、確かに――。
「下がれ!」
ライムの声に、ひまわりははっとして後退する。
次の瞬間、雨宮と他の探索者が合流。
魔物は、連携で仕留められた。
◆
戦闘が終わった後。
ライムは、膝に手をついて息を整えていた。
「……今の」
くるみが、端末を見ながら言う。
「雷、床を伝ってた。
珍しい使い方」
「……無意識だ」
「でも、効果的」
雨宮が、ひまわりを見る。
「怪我は?」
「……ありません」
ひまわりは、深く頭を下げた。
「ありがとうございました……!」
声が、震えている。
だが、さっきとは違う。
「……私、逃げなくてよかった」
その言葉に、ライムは少しだけ目を見開いた。
◆
ダンジョンを出た後。
休憩スペースで、ひまわりは小さく笑った。
「ライムさんって、怖い人かと思ってました」
「……そうか?」
「はい。無口で、雷出すし」
それは否定しづらい。
「でも」
ひまわりは、真剣な目になる。
「ちゃんと、見てくれてたんですね」
ライムは、言葉に詰まった。
異世界では、仲間を守れなかったこともある。
だからこそ――。
「……次は、守られるな」
「え?」
「自分で立て。
その方が、強い」
ひまわりは、少し驚いてから、力強くうなずいた。
「はい!」
◆
そのとき。
視界に、光が浮かんだ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:5
魔力:低
耐久:低
敏捷:低
スキル
・雷魔法(初級)
※精度:安定
※地面伝導:習得(微)
「……上がったな」
雨宮が言う。
「人を助けるのも、経験よ」
ライムは、静かに拳を握った。
異世界では、
強さは、自分のためだった。
だが、ここでは――。
「守るために、強くなる」
そう思えたのは、初めてだった。
雷魔法士ライムは、
この日、ただの異世界人ではなくなった。
仲間を守る探索者として、
確かに一歩、前に進んだのだ。
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