雷魔法士ライム ――現代ダンジョンの守護者――

塩塚 和人

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第5話 未熟な探索者を救え

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湾岸区第七ダンジョン、浅層。

天井の低い通路に、緊張した空気が張りついていた。
湿った石の匂いと、魔物特有の生臭さが混じる。

「……っ」

久世ひまわりは、喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

視界の先には、小型魔物が三体。
数としては多くない。
だが、彼女の手はわずかに震えていた。

――落ち着け。

頭ではわかっている。
訓練もした。
マニュアルも叩き込まれた。

それでも、実戦の空気は違う。

「ひまわり、前に出すぎないで」

後方から、雨宮かなえの声が飛ぶ。

「射線を意識して。
 独りで抱え込まない」

「は、はい!」

返事はした。
だが、足は思ったより前に出ていた。

 



 

ライムは、少し後ろから全体を見ていた。

ひまわりの動きは、悪くない。
だが、余裕がない。

魔物が一体、別方向へ回り込む。
気づいていない。

「……危ない」

声に出すより早く、身体が動いた。

「――雷よ」

細い雷が走り、魔物の足元を撃つ。
直撃ではない。
だが、動きは止まった。

「え……?」

ひまわりが振り向いた瞬間、雨宮が前に出る。

「今!」

連携は、ぎりぎり間に合った。
魔物は倒れ、通路に静けさが戻る。

 



 

戦闘後。

ひまわりは、壁にもたれて肩で息をしていた。

「ご、ごめんなさい……」

声が、震えている。

「私、前を見すぎて……」

「誰でも最初はそう」

雨宮は、厳しくも落ち着いた声で言った。

「問題は、気づけるかどうか」

ライムは、ひまわりの前に立つ。

「……怪我は?」

「だ、大丈夫です」

そう言いながら、彼女は視線を落とした。

「……私、向いてないんでしょうか」

その一言が、胸に刺さった。

異世界で、何度も聞いた言葉だ。
そして、自分も――。

「向いてるかどうかは、まだ決まってない」

ライムは、静かに言った。

「生きている。
 それだけで、次がある」

ひまわりは、驚いたように顔を上げる。

 



 

再開した探索は、順調だった。

だが、少し進んだ場所で、問題が起きる。

「……数が、多い」

前方に、六体以上の反応。
浅層としては、想定外だ。

「引くわよ」

雨宮が即断する。

だが、その瞬間――。

「きゃっ!」

ひまわりが足を滑らせた。

床の亀裂。
わずかな段差。

転倒した彼女の視界に、魔物が迫る。

「ひまわり!」

雨宮が駆け出す。
だが、距離がある。

間に合わない。

 



 

ライムは、考える前に踏み出していた。

「――雷よ!」

いつもより、強く。

だが、狙いは魔物ではない。

床。

雷が走り、亀裂に沿って閃光が広がる。
電撃が地面を這い、魔物の動きを止める。

「……っ!」

同時に、ライムはひまわりの前に立った。

身体が、熱い。
魔力が、内側を流れる。

※身体強化:魔力を筋肉に巡らせ、反応速度を高める技術

意識していない。
だが、確かに――。

「下がれ!」

ライムの声に、ひまわりははっとして後退する。

次の瞬間、雨宮と他の探索者が合流。
魔物は、連携で仕留められた。

 



 

戦闘が終わった後。

ライムは、膝に手をついて息を整えていた。

「……今の」

くるみが、端末を見ながら言う。

「雷、床を伝ってた。
 珍しい使い方」

「……無意識だ」

「でも、効果的」

雨宮が、ひまわりを見る。

「怪我は?」

「……ありません」

ひまわりは、深く頭を下げた。

「ありがとうございました……!」

声が、震えている。
だが、さっきとは違う。

「……私、逃げなくてよかった」

その言葉に、ライムは少しだけ目を見開いた。

 



 

ダンジョンを出た後。

休憩スペースで、ひまわりは小さく笑った。

「ライムさんって、怖い人かと思ってました」

「……そうか?」

「はい。無口で、雷出すし」

それは否定しづらい。

「でも」

ひまわりは、真剣な目になる。

「ちゃんと、見てくれてたんですね」

ライムは、言葉に詰まった。

異世界では、仲間を守れなかったこともある。
だからこそ――。

「……次は、守られるな」

「え?」

「自分で立て。
 その方が、強い」

ひまわりは、少し驚いてから、力強くうなずいた。

「はい!」

 



 

そのとき。

視界に、光が浮かんだ。

 

【ステータス更新】

名前:ライム
レベル:5

魔力:低
耐久:低
敏捷:低

スキル
・雷魔法(初級)
 ※精度:安定
 ※地面伝導:習得(微)

 

「……上がったな」

雨宮が言う。

「人を助けるのも、経験よ」

ライムは、静かに拳を握った。

異世界では、
強さは、自分のためだった。

だが、ここでは――。

「守るために、強くなる」

そう思えたのは、初めてだった。

雷魔法士ライムは、
この日、ただの異世界人ではなくなった。

仲間を守る探索者として、
確かに一歩、前に進んだのだ。

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