雷魔法士ライム ――現代ダンジョンの守護者――

塩塚 和人

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第6話 近接戦闘の基礎

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探索者ギルド湾岸支部の訓練場は、朝から騒がしかった。

金属がぶつかる音。
足音。
怒号と笑い声。

その中心で、ひときわ大きな声が響いていた。

「おいおい、腰が引けてるぞ!
 それじゃダンジョンじゃ三秒ももたねぇ!」

声の主は、佐野すすむ。
Aランク探索者であり、前衛を任される男だ。

鍛え上げられた体躯に、豪快な笑顔。
第一印象は、正直に言えば――うるさい。

「次、ライム! 来い!」

名を呼ばれ、ライムは一歩前に出た。

「今日は魔法禁止だ」

「……禁止?」

「そう。
 身体だけで動け」

思わず眉をひそめる。

「俺は、後衛だ」

「だからだよ」

佐野は、にやりと笑った。

「後ろにいる奴ほど、
 前が崩れたときに死ぬ」

 



 

模擬戦用のフィールド。

柔らかい床材だが、動きづらさは本物に近い。

「軽く殴り合うだけだ」

佐野は、そう言って構えた。

「遠慮はいらねぇ。
 来い」

「……わかった」

ライムは、慎重に距離を詰める。

佐野の重心は低い。
無駄な動きがない。

――強い。

踏み込もうとした瞬間、視界が揺れた。

「遅い!」

衝撃。
気づいたときには、背中が床についていた。

「……っ」

息が詰まる。

「今のがダンジョンなら、終わりだ」

佐野は、手を差し出す。

「立て」

ライムは、その手を取った。

 



 

「なあ、雷魔法士」

佐野は、少し声を落とす。

「お前、戦場を見てるか?」

「……見ているつもりだ」

「つもり、な」

佐野は、ライムの足元を軽く蹴った。

「足。
 地面を信用しすぎだ」

「?」

「ダンジョンの床は、
 罠も、段差も、壊れやすさもバラバラだ」

「だから、重心は常に動かせ」

佐野は、ゆっくりと動きを見せる。

「止まった瞬間が、死ぬ瞬間だ」

 



 

再開。

今度は、ライムが先に動いた。

踏み込み。
フェイント。
だが――。

「甘い!」

肩に、強い衝撃。

視界が回る。

「……くっ」

それでも、倒れなかった。

「お」

佐野が、少し驚いた声を出す。

「今の、踏ん張ったな」

ライムは、息を整えながら答える。

「……身体が、勝手に」

それは、錯覚ではなかった。

体内で、微かに雷の気配が走っている。

※身体強化(微):魔力を筋肉に流し、反応を上げる状態

無意識だが、確かに――。

「面白ぇ」

佐野は、楽しそうに笑った。

「それだよ、それ」

 



 

休憩中。

佐野は、水を飲みながら言った。

「お前の雷、
 攻撃だけに使うには惜しい」

「……くるみにも、似たことを言われた」

「だろうな」

佐野は、指を鳴らす。

「雷ってのは、速さだ」

「一瞬、身体を先に動かす」

「それだけで、
 生き残る確率は跳ね上がる」

理屈は、わかる。

だが――。

「制御が難しい」

「最初は、誰でもそうだ」

佐野は、真顔になる。

「だから、基礎をやる」

 



 

午後は、ひたすら地味な訓練だった。

歩く。
止まる。
踏み出す。

そのすべてに、わずかな魔力を乗せる。

「一気に流すな。
 漏らすな」

佐野の声が飛ぶ。

「雷は暴れる。
 だから、手綱を握れ」

汗が、床に落ちる。

集中しなければ、魔力は散る。
集中しすぎると、動きが止まる。

難しい。

だが――。

「……今の」

一瞬、世界がゆっくりに見えた。

足が、自然に前へ出る。
身体が、軽い。

「それだ!」

佐野が叫ぶ。

「今の感覚、忘れるな!」

 



 

訓練終了後。

ライムは、壁にもたれて座り込んだ。

「……正直、きつい」

「ははっ、だろうな」

佐野は、豪快に笑う。

「でもよ」

彼は、ライムを見下ろす。

「お前、
 ちゃんと前に出られる」

「魔法使いが、
 前に出る必要はない」

「でも、出られるなら強い」

その言葉に、胸が少し熱くなった。

 



 

そのとき。

視界に、光が浮かぶ。

 

【ステータス更新】

名前:ライム
レベル:6

魔力:低
耐久:低
敏捷:やや向上

スキル
・雷魔法(初級)
 ※精度:安定
 ※身体強化(微):習得

 

「……敏捷、上がってるな」

雨宮が、結果を見て言った。

「前に出る準備が、
 整ってきたってこと」

ライムは、拳を握る。

異世界では、
魔法だけが武器だった。

だが、この世界では――。

「身体も、武器になる」

佐野は、満足そうにうなずいた。

「次は、実戦だな」

雷魔法士ライムは、
この日、戦い方を一つ増やした。

それは、派手ではない。
だが――確実に、生き残るための力だった。

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