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第6話 近接戦闘の基礎
しおりを挟む探索者ギルド湾岸支部の訓練場は、朝から騒がしかった。
金属がぶつかる音。
足音。
怒号と笑い声。
その中心で、ひときわ大きな声が響いていた。
「おいおい、腰が引けてるぞ!
それじゃダンジョンじゃ三秒ももたねぇ!」
声の主は、佐野すすむ。
Aランク探索者であり、前衛を任される男だ。
鍛え上げられた体躯に、豪快な笑顔。
第一印象は、正直に言えば――うるさい。
「次、ライム! 来い!」
名を呼ばれ、ライムは一歩前に出た。
「今日は魔法禁止だ」
「……禁止?」
「そう。
身体だけで動け」
思わず眉をひそめる。
「俺は、後衛だ」
「だからだよ」
佐野は、にやりと笑った。
「後ろにいる奴ほど、
前が崩れたときに死ぬ」
◆
模擬戦用のフィールド。
柔らかい床材だが、動きづらさは本物に近い。
「軽く殴り合うだけだ」
佐野は、そう言って構えた。
「遠慮はいらねぇ。
来い」
「……わかった」
ライムは、慎重に距離を詰める。
佐野の重心は低い。
無駄な動きがない。
――強い。
踏み込もうとした瞬間、視界が揺れた。
「遅い!」
衝撃。
気づいたときには、背中が床についていた。
「……っ」
息が詰まる。
「今のがダンジョンなら、終わりだ」
佐野は、手を差し出す。
「立て」
ライムは、その手を取った。
◆
「なあ、雷魔法士」
佐野は、少し声を落とす。
「お前、戦場を見てるか?」
「……見ているつもりだ」
「つもり、な」
佐野は、ライムの足元を軽く蹴った。
「足。
地面を信用しすぎだ」
「?」
「ダンジョンの床は、
罠も、段差も、壊れやすさもバラバラだ」
「だから、重心は常に動かせ」
佐野は、ゆっくりと動きを見せる。
「止まった瞬間が、死ぬ瞬間だ」
◆
再開。
今度は、ライムが先に動いた。
踏み込み。
フェイント。
だが――。
「甘い!」
肩に、強い衝撃。
視界が回る。
「……くっ」
それでも、倒れなかった。
「お」
佐野が、少し驚いた声を出す。
「今の、踏ん張ったな」
ライムは、息を整えながら答える。
「……身体が、勝手に」
それは、錯覚ではなかった。
体内で、微かに雷の気配が走っている。
※身体強化(微):魔力を筋肉に流し、反応を上げる状態
無意識だが、確かに――。
「面白ぇ」
佐野は、楽しそうに笑った。
「それだよ、それ」
◆
休憩中。
佐野は、水を飲みながら言った。
「お前の雷、
攻撃だけに使うには惜しい」
「……くるみにも、似たことを言われた」
「だろうな」
佐野は、指を鳴らす。
「雷ってのは、速さだ」
「一瞬、身体を先に動かす」
「それだけで、
生き残る確率は跳ね上がる」
理屈は、わかる。
だが――。
「制御が難しい」
「最初は、誰でもそうだ」
佐野は、真顔になる。
「だから、基礎をやる」
◆
午後は、ひたすら地味な訓練だった。
歩く。
止まる。
踏み出す。
そのすべてに、わずかな魔力を乗せる。
「一気に流すな。
漏らすな」
佐野の声が飛ぶ。
「雷は暴れる。
だから、手綱を握れ」
汗が、床に落ちる。
集中しなければ、魔力は散る。
集中しすぎると、動きが止まる。
難しい。
だが――。
「……今の」
一瞬、世界がゆっくりに見えた。
足が、自然に前へ出る。
身体が、軽い。
「それだ!」
佐野が叫ぶ。
「今の感覚、忘れるな!」
◆
訓練終了後。
ライムは、壁にもたれて座り込んだ。
「……正直、きつい」
「ははっ、だろうな」
佐野は、豪快に笑う。
「でもよ」
彼は、ライムを見下ろす。
「お前、
ちゃんと前に出られる」
「魔法使いが、
前に出る必要はない」
「でも、出られるなら強い」
その言葉に、胸が少し熱くなった。
◆
そのとき。
視界に、光が浮かぶ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:6
魔力:低
耐久:低
敏捷:やや向上
スキル
・雷魔法(初級)
※精度:安定
※身体強化(微):習得
「……敏捷、上がってるな」
雨宮が、結果を見て言った。
「前に出る準備が、
整ってきたってこと」
ライムは、拳を握る。
異世界では、
魔法だけが武器だった。
だが、この世界では――。
「身体も、武器になる」
佐野は、満足そうにうなずいた。
「次は、実戦だな」
雷魔法士ライムは、
この日、戦い方を一つ増やした。
それは、派手ではない。
だが――確実に、生き残るための力だった。
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