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第五話 経験値が、足りない
しおりを挟むノルド畑村に、
不安が残ったまま、
数日が過ぎた。
森は静かだった。
静かすぎるほどに。
高レベル冒険者たちは、
村に滞在し続けていた。
理由は単純だ。
「まだ、
経験値が足りない」
「おかしいだろ」
焚き火の前で、
一人が言った。
「これだけ
狩ったのに」
「前なら、
もう一つ
レベルが
上がってる」
別の冒険者が、
腕を組む。
「計算が
合わないな」
「魔物の数も、
質も、
問題ない」
ラストは、
少し離れた場所で
その会話を聞いていた。
胸が、
ひやりとする。
「……減ってる」
誰にも
聞こえない声で
呟く。
村の外れで、
小競り合いが起きた。
魔物は倒された。
だが――
冒険者は、
首を傾げた。
「……入らない?」
水晶板を
何度も叩く。
「微量だ」
「誤差だろ」
誤差。
その言葉に、
ラストは
違和感を覚える。
誤差で
済ませていい
問題ではない。
なぜなら。
魔物は、
確かに
倒されたのに。
夜。
ラストは、
一人で
境界へ向かった。
崩れた石壁。
踏み荒らされた地面。
戻らない境目。
「……変化が、
ない」
正確には、
違った。
変化は、
あった。
だが。
意味のある
変化では
なかった。
壊しただけ。
減らしただけ。
選択を、
奪っただけ。
ラストは、
胸に手を当てる。
あの日。
獣を
森へ返したとき。
少女を
檻から出したとき。
境界に
立ったとき。
世界は、
確かに
動いた。
小さく。
静かに。
だが、
確実に。
翌朝。
高レベル冒険者の一人が、
苛立った声を上げた。
「この辺り、
もう効率が悪い」
「次へ行こう」
村人は、
安堵した。
だが。
ラストだけは、
違うものを
感じていた。
「……空白が、
残る」
冒険者たちが
去ったあと。
境界の外から、
奇妙な気配が
漂い始めた。
今まで
感じなかったもの。
村の誰も、
それを
言葉にできない。
数値も、
表示も、
ない。
ラストは、
水晶板を見る。
レベル:1
変わらない。
だが。
初めて、
確信した。
――この世界は、
間違った方法で
成長している。
経験値は、
足りなくなっている。
それは、
枯渇ではない。
浪費だ。
ラストは、
静かに
息を吸う。
「……僕は」
「まだ、
何も
できない」
それでも。
「気づいて
しまった」
水晶板が、
今までで
一番強く
震えた。
だが表示は、
変わらない。
レベル1。
夜空に、
雲が流れる。
その向こうで、
何かが
崩れ始めていた。
数値に
ならない場所で。
――少年は、
世界の
減少を
観測した。
ただ一人。
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