3 / 19
第3話 影を追う
しおりを挟む
最初の広間にいた6人全員で移動をする。俺はシンとレイに両腕を捕まれ連行されている。長い廊下を通りさっきまでいた広い部屋と全く同じ作りになっている部屋にたどり着く。唯一の違いはこの部屋のソファーには誰も腰掛けていないということだけであった。部屋の奥には暖炉を挟んで二つの扉があり、右側の扉には金色の獅子型のドアノッカーが施されており、獅子の鋭い眼つきはまるでこちらを睨みつけているようであった。レイは獅子が咥えているノッカーでコンコンと二度ノックをした。
「エーベルハルト殿。緊急事態故に報告をさせていただきたいことがある。入室の許可を頂きたい。」
レイが入室許可を求めてから数秒で返答がきた。
「入りたまえ。」
鍵が開く音が聞こえ扉が年季の入った音を立てながらゆっくりと開く。しかし扉を開いた者は見当たらない。部屋の広さは8畳ほどであり、部屋の外枠を囲む本棚の他には大きな書斎机のみがある。机に向かっているのは50代ほどに見受けられる男。
「君は初めて見る顔だな。こちらから招待をした覚えはないが、どこから湧いてて出てきたのだろうか。」
おそらくこの男がエーベルハルトと呼ばれるこの館の主であろう。堀の深い顔の整えられた髭が印象的であった。今更ではあるが、今まで出会った人たちはシンを除き皆外国人の容姿をしているが、しっかりと日本語を話している。まるで吹き替えの映画を見ているようだ。そんなことを考えているうちにレイは、エドが殺害されてから俺を発見・拘束し、事情聴取を行なったまでの流れをエーベルハルトに説明した。彼は少し考えた後に書斎机の引き出しに手を伸ばし、何かを取り出そうとする。
「まったく。他人様の家で面倒ごとを起こしてくれたな。ましてや殺人など、いかがなものであろうか。私はそんなことのために君たちを招待したわけではないのだがな。なんにせよ、何者かが嘘をついており、その者が犯人であることは間違いがない。」
エーベルハルトは不服そうに引き出しから取り出したロザリオのようなものを書斎机に置く。
「さて、ここにいる皆に問おう。この中にエドワード・スパインを殺害したものはいるか?」
エーベルハルトはロザリオをかざしこちらを睨みつける。当然ながら全員が殺していないと答える。しかしロザリオに反応は無い。
「・・・少なくとも君たちは”殺人は”行なっていないようだな。」
シンはこの結果に納得できず、エーベルハルトに詰め寄る。
「おい、その魔具壊れているんじゃ無いのか?どう考えたってコイツが犯人なんだ。」
シンは乱暴に俺を指差す。
「不可解なことが起きているのは事実であるがこの魔具は壊れてなどいない。これは裁判で使われる正式な一級魔具であり、その効果にも疑う余地はない。例えば・・・」
エーベルハルトは再びロザリオを手に取り、レイの前にかざす。
「君は私に疑念を抱いているな?心の底では信用していない。そうだろう?」
レイはそれを否定する。すると、ロザリオは暖かな光を放つ。おそらくこの反応が”嘘”を見抜いた際のロザリオの反応なのであろう。レイは咄嗟に社交辞令として否定したのであろうが、それは悪意はなくても”嘘”であることには変わりない。シンもレイもきまりが悪そうに肩をすくめる。
「では、侵入者よ。貴様は殺人を犯していないことは証明されたが、この館に許可なく忍び込んだことは事実であり、当然それは罪である。」
俺は、意図があって侵入したのではなく異世界からここに突然転移されてきたことを説明する。当然信じてもらえるわけもなく、エーベルハルトは呆れたようにため息をつく。
「愚かな言い訳を。どうせ貴様も私の保有する特級魔具を狙ったネズミの一匹なのであろう。今すぐにでも罰を与えたいところであるが、私も紳士だ。貴様に情状酌量の余地を与えよう。」
エーベルハルトは疲れ切ったような顔つきでゆっくりと足を進め俺の前に立つ。
「私は面倒事が嫌いなのだ。そこで君にチャンスを与えよう。エドワード氏殺人事件の犯人を捉え私の元へ連れてくるのだ。さすれば、不法侵入の罪は不問としよう。」
不可抗力とはいえ異世界転移してきたことを証明できない以上、俺はこの機会を逃すわけにはいかなかった。深呼吸をして頭の中を整理する。そして、エーベルハルトが「面倒ごとが嫌い」と言った理由に気付く。それは嘘を見抜くことができる「魔具」とよばれていたロザリオが証明してしまった厄介な事実である。この部屋にいる6人を見渡し、俺はその厄介な事実をつい声に出してしまう。
「この中に犯人はいない。」
「エーベルハルト殿。緊急事態故に報告をさせていただきたいことがある。入室の許可を頂きたい。」
レイが入室許可を求めてから数秒で返答がきた。
「入りたまえ。」
鍵が開く音が聞こえ扉が年季の入った音を立てながらゆっくりと開く。しかし扉を開いた者は見当たらない。部屋の広さは8畳ほどであり、部屋の外枠を囲む本棚の他には大きな書斎机のみがある。机に向かっているのは50代ほどに見受けられる男。
「君は初めて見る顔だな。こちらから招待をした覚えはないが、どこから湧いてて出てきたのだろうか。」
おそらくこの男がエーベルハルトと呼ばれるこの館の主であろう。堀の深い顔の整えられた髭が印象的であった。今更ではあるが、今まで出会った人たちはシンを除き皆外国人の容姿をしているが、しっかりと日本語を話している。まるで吹き替えの映画を見ているようだ。そんなことを考えているうちにレイは、エドが殺害されてから俺を発見・拘束し、事情聴取を行なったまでの流れをエーベルハルトに説明した。彼は少し考えた後に書斎机の引き出しに手を伸ばし、何かを取り出そうとする。
「まったく。他人様の家で面倒ごとを起こしてくれたな。ましてや殺人など、いかがなものであろうか。私はそんなことのために君たちを招待したわけではないのだがな。なんにせよ、何者かが嘘をついており、その者が犯人であることは間違いがない。」
エーベルハルトは不服そうに引き出しから取り出したロザリオのようなものを書斎机に置く。
「さて、ここにいる皆に問おう。この中にエドワード・スパインを殺害したものはいるか?」
エーベルハルトはロザリオをかざしこちらを睨みつける。当然ながら全員が殺していないと答える。しかしロザリオに反応は無い。
「・・・少なくとも君たちは”殺人は”行なっていないようだな。」
シンはこの結果に納得できず、エーベルハルトに詰め寄る。
「おい、その魔具壊れているんじゃ無いのか?どう考えたってコイツが犯人なんだ。」
シンは乱暴に俺を指差す。
「不可解なことが起きているのは事実であるがこの魔具は壊れてなどいない。これは裁判で使われる正式な一級魔具であり、その効果にも疑う余地はない。例えば・・・」
エーベルハルトは再びロザリオを手に取り、レイの前にかざす。
「君は私に疑念を抱いているな?心の底では信用していない。そうだろう?」
レイはそれを否定する。すると、ロザリオは暖かな光を放つ。おそらくこの反応が”嘘”を見抜いた際のロザリオの反応なのであろう。レイは咄嗟に社交辞令として否定したのであろうが、それは悪意はなくても”嘘”であることには変わりない。シンもレイもきまりが悪そうに肩をすくめる。
「では、侵入者よ。貴様は殺人を犯していないことは証明されたが、この館に許可なく忍び込んだことは事実であり、当然それは罪である。」
俺は、意図があって侵入したのではなく異世界からここに突然転移されてきたことを説明する。当然信じてもらえるわけもなく、エーベルハルトは呆れたようにため息をつく。
「愚かな言い訳を。どうせ貴様も私の保有する特級魔具を狙ったネズミの一匹なのであろう。今すぐにでも罰を与えたいところであるが、私も紳士だ。貴様に情状酌量の余地を与えよう。」
エーベルハルトは疲れ切ったような顔つきでゆっくりと足を進め俺の前に立つ。
「私は面倒事が嫌いなのだ。そこで君にチャンスを与えよう。エドワード氏殺人事件の犯人を捉え私の元へ連れてくるのだ。さすれば、不法侵入の罪は不問としよう。」
不可抗力とはいえ異世界転移してきたことを証明できない以上、俺はこの機会を逃すわけにはいかなかった。深呼吸をして頭の中を整理する。そして、エーベルハルトが「面倒ごとが嫌い」と言った理由に気付く。それは嘘を見抜くことができる「魔具」とよばれていたロザリオが証明してしまった厄介な事実である。この部屋にいる6人を見渡し、俺はその厄介な事実をつい声に出してしまう。
「この中に犯人はいない。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる