速さ

Nick Robertson

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すっかり忘れていたけど、まだ街には野次馬、かな、かなりの人が私を見物しにくる。
でも、もう一定の距離を保って離れていてくれるから、変な気持ちにはなるけれど買い物に支障は出ない。
そして、王の言う通り銀行に向かった。
銀行で預金したほうが良いと思う、とにやけながら言っていたのだ。
私はそれに従った。
手続きは簡単だ。
腕時計をピッと鳴らせばいい。
画面にくっつけて認証完了だ。
さて、1カラペソはどのくらいかな?
両替してやろうとすると、1円、10円、100円、五百円、千円、二千円、1万円、1カラペソと表示が出る。
「は?」
結局わからんでないかい!
そして二千円のボタンを押す人なんているのか?
む、いるかもしれないな。
私はまず一万円を押した。
出てくる。
この時点で、1カラペソは五百円以上ということが確定する。
えへん、10000÷20=500
という計算だ。あってるよね?(20カルペソで10000以上だから)
私はその一万円札を持って店を見て回る。
さすがにみんなは銀行の中までは入ってこなかった。
セキュリティの関係もあるかもしれない。
しかし今はまた外だ。
私は周囲の目をできるだけ気にしないようにして歩く。
小さな茅葺屋根の店があった。
なんだかいい感じだったので入る。
おばあさんと若い女の人がいる。
「あ」
私はすぐに気がついた。
今日の朝私が「なぜこんなに人が集まっているの?」という風に聞いた女の人だ。
その人もすぐに気がついた。
そして私の後ろを睨む。
こっそり、むしろ堂々と見ている人々がちらほらいるのだ。
もうほっとけよと思うが、確かに新人がいきなり暴れん坊を倒したと聞いたら誰でも気になるな。
立ちのく気配はない。
女の人はそれを見るとなんとシャッターを下ろしてしまった。
つまり店じまいをしたのだ。
シャッターを下ろした後はこちらに向き直る。
私は心配になって「えーと、こんなことして良かったんですか?」と聞いた。
「大丈夫よ。どうせ客なんかいなかったんだし」
「ここでは何を売っているの?」
「売る?売るといえば売ることになるのかもしれないけど…、売る、かあ」
何言ってるんだ?
「いやあ、ここ宿屋だからさ」
ほお。
「ここ泊まるのいくら?」
「いくらかって…えーと1日6千円」
「へー、なんで客がいないの?」
女の人は顔をしかめておばあさんを指差す。
「ここではこんな金髪が混じった白髪の人は軽蔑されるのよ」
確かにおばあさんの髪にはところどころ金色に光っている。
「は、何それ?なんで?」
理由がわからないじゃあないか。
「えーと、それは数ヶ月前だったわ。ほら、ゲルがみんなを荒らしたでしょ?ゲルもこんな髪なのよ。セクイトっていう名前で呼ばれる人種で、今までにも悪さをしているの。それが、ゲルの件でもっと嫌がって、それから変な噂が立って誰も来ないわ」
「変な噂?」
「このばあさんが夜に顔をかじるんだってさ。みんな、この人に歯がないこと知らないから」
私はすぐそこを気に入った。
路傍で寝ることを考えていたのだが、目立ちすぎると思っていたのだ。
ここなら、他人は入ってこれないわけだ。
みんな馬鹿らしいと思ってはいるだろうが、ここに泊まった人は後でみんなに無視されたりとか、そんなことをされるんだろう。
うーん、私天才だなあ。
歯なんてあってもなくても、そんなのどっちでもいいんだ、多分。
「私は今日からここに泊まるよ」
「ええ!泊まってくれるの?」
「それの方が都合がいいんだ。それで君とおばあさんとの関係は?」
私はこういう時「おばあさん」と呼んではいけないのか呼んでもいいのか、呼んでいけないならどう言えばいいのかなど、全く知らない。
しかし二人とも全く気に留めていないようだ。
「私はセリって言って、こっちは母さんのキコ」
名前だけ若そうな感じがする。
…ていうことは、さっきセリは自分の母さんに向かって「ばあさん」って言ったんだな。ええ、そういうもんか?
でもこの親子は仲が良さそうだ。
「年は結構離れてるんだな」
「あ、親子っていうのは、あくまで書類上の話ね」
えええ、何があったの?
そんなことをずっと考えているうちに、質問を思い出す。
「突然で悪いんだけどさ、1カラペソって何円?」
「あら、はずーだ星では数え方が違うの?10万円よ」
「ふぇ?」
王からもらったのは20カルペソ。に、200万円?!
うわあ、さらっと出されたからさらっともらっちゃったよ。
こりゃ、当分もつな。




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