能力なしの転移は人運でどうにか

Nick Robertson

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「………えー、なんか感じるかぁ?」
「まぁ、ジンジンしてるけど」

路上でこんなことやってたら変に見られるだろうに。
おっさんは今俺の背中に手をくっつけて能力波なるものを流し込んでいる。

「おっかしいな。おい兄弟!右手から何か飛び出でくる感覚とかないのか?我慢する必要ねぇんだぞ?」
「それはないね」

おっさんは、俺が持つ能力波を強制的に押し出そうとしているみたいなんだが、何も起こらない。背中はあったかいんだけど。

「手じゃなくても良い。口からなんか出てきそうだったりとか」
「そんな気配すらしないよ。兄弟のやり方が間違ってるんじゃないのか?」
「いやいやいやいや俺のせいにすんなよ!!」
明らかにおっさんは焦っている。
力が入ったらしく、背中がグイ、と前に突かれた。

「みんなこうやってるんだけどなぁ、変だなー」
「じゃ、俺は何なの?」
「……………」
「はぁ………」
能力、現れず、か。

「うーん、このままずっといても、周りから不審に思われるくらいの効果しか上がらないだろうな。もう思い切って協会に行ってみよっかなぁ」
「それはやめといた方が良いぜ兄弟!俺は炎を扱えるけど、結果はDランクだったんだ」
「それは単に兄弟が弱いってだけじゃねぇの?」
「んー、それもあるかな?あっはっはっはっはっはっ!!」

しょんぼりと俯いていた男の人が、おっさんの笑い声に驚いて顔を上げた。
この人は協会の自動ドアが開けて出てきたのだが、まぁ、何かの結果が思うようにいかなかったのだろう。

「じゃ、俺、挑戦してみよっと。一応な」
「そうか。なら……、兄弟、俺から最後のアドバイスだ。…ダメ元はやめとけ。常に勝てると思って臨め。……………どう?カッコいいだろ?」
「まずまずだな」

俺はおっさんに別れを告げて協会へ入った。

スー、カタン、とかすかな音がして戸が閉まる。
前方には「受付」と書かれた札が吊るされてあった。
そこに立っていた女の人が俺に気づき、笑顔で対応してくれる。

「『ミスターエックスをやっつけちゃおう協会』に何かご用ですか」
何という分かりやすいネーミングだろう。早速変えた方が良いと思う。

「あの、協会登録をしたいんですけど……」
俺がそういうと、受付の人は少しビックリしたように「初めての方ですか?!」と聞いてきた。

「はぁ、まぁ、はい」
「これは珍しいですね。てっきり東京都内の全ての人が登録を終えていると思っていました」
「…………」
「あれ、それとも、もしかして転移者様ですか?」
「……え」
「お爺さんにこの世界に連れてこられたとかいう人……」
「あ、そうです」

そうか。俺より先にこの世界に投入された人はたくさんいるんだった。なら、この人が知っていてもおかしくはない。

「そういうことでしたか。なら当然ですね。失礼しました。では、闘技場にご案内します」

闘技場。技を使って戦う場所じゃないか。俺はどうすれば良いんだろう。
この女の人にいきなり「技がまだ目覚めてないんで、俺の背中から押し出してくれません?」なんて言えないしなぁ。

おっさんのやり方が下手くそだった、というので一旦落ち着いているが、みんなのじいちゃんが能力を与えるのをケチったという可能性もぬぐいきれない。どっちにせよ、この戦いは能力なしで挑むしかないのだろう。
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