能力なしの転移は人運でどうにか

Nick Robertson

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「………あのー、協会長がお戻りになりました」
「ん?んあ…」

俺が寝ぼけていると、頭をいきなりバシンと叩かれた。

「おい!いつまで寝ている!!せっかく私が時間を削ってまでやって来たというのに……。さっさと終わらせるぞ」

腕を掴まれて、引きずられる。

「おい、早く立て!!さっさと闘技場に行けくんだっ!」
「……協会長、一応この人は転移者だということですが」
「うるさい!転移者だろうが何だろうが、私にゃ知ったこっちゃねぇんだよ!起きろ!こら!!」

叩かれた時点で眠気は吹っ飛んでいたのだが、引きずられているので自分で立つことができない。
受付のカウンターの角に腹をぶつけた。
俺は小さく呻いたが、そんな声は協会長の耳に受け入れられなかった。

闘技場に放り込まれる。この時点で俺はだいぶん弱っていた。あーあ。

「何だ、こいつ目は開けてるじゃないか。じゃあ何で何も応えなかったんだ、おい!」
蹴飛ばされる。力の加減はしているようだが、まだ戦いは始まっていないというのに扱いが酷い。

「まぁまぁ。怒っていても試合は始まりませんよ」
「じゃあ急いで開始しろ」
「はいはぁい。あの、挑戦者は立ってください」
「おい、あいつに構わずにさっさと言え」
「分かりました。試合開始!」

え、何いきなり始めようとしてんの?
俺が片膝をついてようやく体を起こしかけた時、既に協会長は身体強化の術を使用していたようで、体が白っぽく光って見えた。

「はぁっ!」
その叫び声と共に、協会長の姿が消える。

「?!」
と思ったら、もう目の前にいた。

「うわっ!」
俺はとっさに協会長から自分の身を守ろうと手を前に出して体をかばった。
しかし、協会長はそれを物ともせずに前蹴りを当ててくる。
流石に怪我はさせまいと思ったのか、刺すような鋭い蹴りではなく、押すような緩い蹴りだったのだが…………。

ビリッ
小さな、そしてとても重要な音がした。
俺は手で体をかばった時、図らずも、接近していた協会長の服を握っていたらしい。

「…………………!!!」
協会長の顔がみるみるうちに真っ赤になる。
そう、俺を突き飛ばそうとしたものだから、協会長の服が破れてしまったのだ。鎧などではなく、私服だった。さっきまで遊んでたみたいだし。

「いやぁ!!!」
協会長は叫びながら全速力で闘技場を出ていってしまった。

「………………、あっ、協会長の試合放棄により、挑戦者の勝利!」
しばらくして、審判をしていた受付の人が、思い出したように俺の勝ちを宣告した。
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