能力なしの転移は人運でどうにか

Nick Robertson

文字の大きさ
20 / 100

20

しおりを挟む
俺は「もうおしまいか」と諦めかけた。

しかし、そこに救いの手が伸びてくる。
「……お、大当たりだ」
「え?」

地面からニョキッと人間の体が生えてきた。

「うわぁぁぁ!」
「おい、お前こっちへ来い!急がなきゃ追いつかれるから!!!」
「え?」

手を引っ張られ、強引に連れて行かれる。

「おわっ!」
「ちゃんと着地できたか?」
ガタガタ、とその人は地面に開けられた穴を封じた。

「ここは?」
「不用意に動くなよ。下水道だ」
「ウッ、だからこんなに臭いがキツいのか!」
「だから動くなっての!足を滑らしたら汚い水の中に頭が落っこっちゃうぞ!!」

ということは、さっきはマンホールから降りてきたってことらしい。
バタバタと上から音が聞こえた。
真っ暗で全く見えないが、「シッ」とその人が言うので、黙ってじっと耐える。暗闇は怖いものだ。

「くそ、消えたぞ?どこだ?!」
「さっき会話が聞こえたけどな。あいつ一人じゃなかったのか?」
「いや、あの声は、コソ……」
「何?!コソと合流しただと?マズい!何としてでも捕まえるんだ!!」
「「「「はい!!!」」」」
「あいつはここからそう離れていないはずだ!上は?!」
「………いません!!」
「お前達は念のため周囲のビルの中を探らせてもらえ!他の者は地下だ!下水道か何かがあるだろ!探せ!!奴がいつも使う手だ!!!」
大声でトップっぽい人が命令している。

「急げ!最悪殺しても構わん!!」

その最後の一行が俺を慌てさせる。

「に、逃げなき……」
ガンッ、と盛大な音をたてて俺は倒れた。

「おいバカ!そこからは道が極端に狭くなるんだ。高さも低くなる!だから這いつくばって動かなきゃいけねぇんだよ!!」
その人、恐らくコソと呼ばれる人は、俺を抱き起こしながらそう言った。

「くっ、いてぇ……」
「だから!何も知らないお前が勝手に進もうとするな!!分かったな!」
押し殺した叫び声だ。地上に漏れるのを警戒しているんだろう。

「あっ!ありました!マンホールです!!」
カタカタと真上で音がした。

「マズいぞ!!俺について来いっ!こっちだ!!」
俺を押しのけるようにコソが這って進んでいく。
ここでは、綺麗じゃないからどうとかこうとか、そういうのは言ってられない世界らしい。俺は決心して、彼の後を追う。

「……何をモタモタしている!今にもあいつらは逃亡中なんだぞ!!……あぁ、お前はここら辺、全ての下水道に張り込むように伝えろ!分かったな!!」
「くそっ、ダメです!このマンホール、何かでくっつけられてます!バールでも持ち上げられません!」
「ならここから入っていったことはほぼ確実なものになったな!引っぺがせ!それか、いっそのこと壊してしまえ!何か使えそうな道具を持って来ている奴がいたらすぐに出すんだっ!コソの対策として携帯しているのはないか?!」
「あ、それなら私が!!!」

少しして、ウィーンウィーン、という音楽が奏でられ始めた。電動ノコギリの類だろうか。
そのまま何かで叩いたようで、バキッとマンホールが崩れ落ちる。
俺は、そこへサッと差し込んできたライトの光が、迷子になった自分への道しるべのように見えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...