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「でも、20分を過ぎちゃうと戻せなくなるんでしょ?!じゃあ、自分の家を優先した方が……」
「道路の方がよく使われるだろう?人通りは少ないと言っても、たった二人の家よりは重要なはずだ。それに、どっちみち間に合うと思うし」
「人として当然のことよね。周りの人のことを考えると」

この人達は釣り合いを取っている。
快楽主義でありながら、その根底にあるのは人道主義なのだ。楽しみを追い求め続けると暴走することがある。それを防ぐために、大衆利益を念頭に置いて、それだけは譲らないようにしているらしい。

「それでは、急ぎましょう。万が一のこともありますし」
「そうね。20分モタついてたら、今日から野宿になっちゃう」
「面白そうだけどね。いっつも外でいられて」

言いながら、早足で移動を始める。

「……なぁ、お前は『身体強化』しなくて良いのか?」
コソに聞かれた。

「ん?」
「この二人は確かに強そうだけどさ、協会長に『身体強化』してもらってた方が安全だぞ?」
「大丈夫。ガードしてるから」
「ガード?」
「半径3メートルの所を守ってくれるんだ」

「何ですって?!」
カズオが目を輝かせる。

「本当ですか?!コウキさん、ナズハさん!」
「そうだよ」

コウキは頷いた後、青い光の波を周囲に飛ばした。

「……ほほぉ、これで20分までの記憶がなくなるわけですね?」
「そう。100メートル四方に広がったはずなんだけど……」
「それは凄い!」

四方、と聞けば四角形、それも正方形を連想しそうだが、コウキは同心円状の光の波を出しているから、直径200メートルの円の中にいる人が対象だということらしい。かなり大きいな。

「ナズハさんも同じ感じですか?えぇっと、つまり、半径100メートルの円に入っている物を20分前の状態にするのですか?」
「私は視野の中だけよ。今見えている所から、直したい部分を自分で選ぶの」
「はぁ、それも良いですね!!直してはいけないと判断した場所は放置できるんですから!!」
「言い方が悪いね。そんな、ワザと無視するようなことはしないわよ」
「すみませんでした。おっしゃる通りです」

カズオがペコペコと謝る。とっても嬉しそうだ。珍しい特殊能力だもんな。

「…それで、コウキさん!」
「な、何?」
「僕達の記憶は消えないんですか?」
「あぁ、そこは安心して。効果範囲から除外してるから」
「そういうこともできるんですね!はっはぁ……」

感心しているのは悪いことじゃないんだろうけど、コウキは何だかビクついている、と言うか、迷惑がっている、と言うか。

「おっ、おっ、瞬く間に直っていく!凄い凄い!まだまだ質問することが多そうだ!!」
みんなの前で宣言するように叫んだのはなぜなのだろうか。まさか、宣戦布告のつもりとか?
……ナズハとコウキが唾を飲み込む音が聞こえてくるようだ。
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