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「それにしても協会長の進化のスピードは速いですね」
「そうね。このくらいじゃなきゃ全員を守りきれないし」

俺達は今、黒い炎に持ち上げられている。

「これ、もう『身体強化』を飛び越えてるよね」
「道具みたいになってるもん」
「私も、炎で人が運べるとは思ってなかったわ」

クリーン空気班が去っていく。

「……僕らの家、マズいことになってるんだろうなぁ」
「それはナズハの能力でどうにでもなるよ。問題は、あいつらがガードの弱点を知ってるってことだね」
「うーん、空気が出入りするって言う情報、どこから漏れちゃったかな……」
「ウカウカしてられないわ。今日は野営もできそうにないわね。徹夜よ、徹夜」

ナズハが拳を突き上げて叫ぶ。
……俺は正直、寝ようが起きてようが、どっちでも良い。とりあえず、協会長から離れなければ…。

そう安直に考えていると、上空から会話が聞こえてきた。
「うわぁ、あれだよね、敵って。……えぇと、いち、にぃ、さん…、8人もいるよ。勝てっこないよぉ。だから僕は嫌だって言ったんだ」
「大丈夫。万事うまくいくって。安心しなよ。僕達、みんなが思ってるより、もっともっと強いんだから。僕らより強い人間なんてそういるわけないんだ」
「そうやって考えてたらいつか痛い目見るよ」
「とにかくもっとプラス思考プラス思考!僕達ならできるよ!」
「あぁ、お腹痛くなってきた……」
「これ終わったらあったかい紅茶でも飲んでさ、ね?」
「ううう………」

なんということだろう。楽観主義者と悲観主義者が共に行動しているとは。

「ほら、大変なことを乗り越えたら、きっと楽しいことがやってくるから」
「なんだって?!君は気づかないの?ずっとこんな戦いばっかりやらされ続けてさ」
「リラックスリラックス。今までもこういう状況を乗り越えてきたでしょ?今回も大丈夫だよ。僕らの周りには味方がいっぱいいるんだしさ」
「敵だらけじゃないか!」

ワイワイ言いながらゆっくり降りてくる。

「空中に……、浮いてる………」ナズハが呟いた。
「やぁ!君達が今回の相手だね。よろしく!」
「よ、よろしく……」
「あはっ!返事返してくれたよ!ね、良い人そうじゃない?」
「その『良い人』をこれから殺さなきゃいけないんだよ……?」
「そうだね。でも、怖い人より良かったなぁ。そう思わない?」
「どっちも嫌だよ」

協会長が黒い炎をその二人に差し向けた。

「あ!なんか来たっ!」
二人はサッと身を翻してそれを躱す。

「ほら、悪い奴じゃないか!」
「そりゃ、僕らが『殺す』なんて言ったからだよ。……うーん、でも命令なんだよね」

楽観主義の男の子が両手を突き出した。
途端に、黒い炎が消える。

「?!」
「どうしよっかなぁ。これから」
「特殊部隊に任せて帰ろうよ!なんか奥の手を隠してそうで怖い」
「そんなことできないって」

コウキとナズハが震えだした。
もしや…
特殊能力を封じられた?!

急いでカズオを見た。
彼は、黙ったまま目を伏せている。
……おい!!!お前もかぃ!
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