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「…さぁカレン、謝りなさい」
俺が黙ってしまったのを見て、弘は先に手を打つことにしたようだ。
カレンはピクピクと目を細めている。

「……カレン」
「…す、すみま………」
「怒ってない!!」
「?」

カレンの腰がミシミシと折れてしまいそうになったので、俺は思わず叫んだ。

「それはどういう……」
「俺は、さ!カレンのこと、これっぽっちも怒ってないんだ。だから謝られたって意味ないよ。逆に、どうして謝るのか知りたいくらいだ」
「………チッ」

弘は舌打ちした。

「…でも、まぁカレン、一応、謝っときなさい」
「………い」
「い?」

彼は思わず隣を見る。
「ごめんなさい」も、「すみません」も、頭文字に「い」は付かないからだ。

「…嫌!」
「え?!」
弘は信じられないといった様子でカレンに顔を向けていた。
彼女は彼女で、シャックリをあげながらブンブンと首を横に振り続ける。

「……………ハッハッハッハッハッハッハ、アァッハッハッハッハッハ!!」
突然彼は大笑いをしだした。なんなんだよ、笑い上戸ってヤツか?涙出てるけど。

「…はぁ、はぁ、こりゃあ傑作だ。初めて娘に反抗されたよ。……君は本当に不思議な人物だ。今まで誰もガードに入れようとしなかったナズハとコウキに初対面で気に入られるし、ウチの娘とはこんな大喧嘩をやってのける。やはり私には君が必要だ」

ナズハとコウキのガードに?へぇ、軽々しく入れてくれるんだなぁって思ってたのに。
俺は少し首をひねる。

「だから……」
「どう必要なんだよ。何に利用するつもりだ?今さっき、こっちの方からあんたは『人使いが荒い』って聞いたけど」 
指差された楽観主義者と悲観主義者はアチャーって顔をして俯く。

「あれ?そんな風に言ってたかい?おかしいな。私は絶対に強制はしないと決めているのだが」

強制はしない、か。確かに今も、俺の口から「協力してもいい」という言葉が出てくるのを待っているようだ。だが、周りをがっちり固めて有無を言わせないようにしているのにも気づいてほしい。

「……あいつね、強制はしないんだけど、良心に訴えてくるんだよね。例えば僕らの場合、道路を壊したことを告げてきたりさ。…ほら、僕とナズハって代理が利かないでしょ。僕にしかできないことがあって、ナズハにしかできないこともある。あの男は、そういう案件ばっかり集めてくるんだよね。だから断れない」
「なるほど。よく分かった」

それはつまり、強制しているということだ!
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