オカリナ

Nick Robertson

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夏の光に包まれて、僕は目を閉じた。
何も考えさせないような、うだる暑さだった。
僕が汗を拭いても、さらにあふれ出て、涙のようにほおを伝う。
自転車は進む。
隣にナスビが見え、紫の実が、落っこちそうなほど垂れていて、僕は過ぎ去る。
自由研究をしなければならない。
なぜこんなものがあるのかは、自分の中で七不思議の一つだ。
僕の川。
これを調べるのだ。
僕の川は、家の近くにあって、僕はザリガニを見つけたことがある。
ザリガニはよどんだ水の中にいた。
流れがそこだけ止まっていて、取り残されたようなところ。
ボウフラが体を必死にねじって進んでいるようなたまり場だ。
流れがきちんとあるところには、鯉や亀がいる。
でも僕はザリガニの方が好きだった。
だから水がたまっているところに向かう。
自転車がギコギコとひどく鳴って、到着する。
そんなに時間は経っていないのに、こんなにも疲れている。
僕はすぐ研究にとりかかった。
ふむ、スケッチしなければいけない。
なのにザリガニが今日に限ってお休みしている。
ボウフラはクニョクニョしていたので、それを描いてみると、消しカスみたいになった。
「かわのせいそうぽすたー」というのもここで終わらせるつもりなのに、こんなのではまるでだめだなあ。
だからメダカを描いてみようとして、見えない動物に目を凝らすけど、すぐにあきらめてしまう。
鯉は難しい。
他にライギョとか、ブラックバスとか、ナマズとかいるけど、みんな難しい。
僕は全部書き取ってみたけど、同じ形になってしまう。
目が潰れているからいけないのかもしれない。
そういえばみんなでっぱっている。
僕はそれに気づいたので消しゴムで消すと紙が破れてそこに石が現れた。
紙を地べたに置いて書くとこんな風になるから嫌だ。
鉛筆の線も曲がってしまう。
でも膝の上に紙を乗せるともっと変になる。
そうやって苦戦していると、水の底が少し輝いているのに気づいた。
あれ?と思った時にはもう腕が伸びていた。
あと一歩というところで届かない。
もう水の中にスッポリ肩まで浸かってしまって、首を必死に曲げているところだ。
「わ」そのまま水の中に落ちてしまう。
ぱしゃっと水しぶきが上がる。
何も考えずに、ジタバタ暴れたけど、底に沈んでしまって、光り輝くものを手でつかんでいた。
それを拾った所は、思ったよりもずっと深かった。
藻が顔に触れる。
張り付くまではいかないけれど、僕はそれをはねのけて上がる。
また沈んでしまう。
後から考えるに、無理に手足を動かしたのがいけなかったのだと思う。
それをやめたら浮いたから。
僕はやっとの事で水から這い出ると、倒れたまま起き上がれなかった。
体から川の匂いがする。
お母さんに叱られるな。
こんな事をするといつも叱られる。
なぜかはやっぱり分からない。
大人は分からないことが好きだ。
なんでそんな風に決めるのだろう。
深い息をしながら手にしたものを見る。
ビー玉だった。
ひとつのビー玉が、僕の手の中にきちんと収まっていた。
僕は嬉しくなったけど、体はぐったりしていたから、またビー玉を持った手をおろしてしまう。
みんなに後で自慢しようかな。
それとも秘密にしようかな。
僕は楽しみに満ちている。
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