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「…ごめん、なさい」
「なんで?」
俺のせいで。
花は俺をおぶっている。
はじめの方でバテテへたり込んでからずっとだ。

花はふっふっと笑う。
いつも花は笑う時に口元を隠す。
今は両手を俺の足に使ってるからそれが出来ない。
花の笑っている口が、それも俺は好きだ。
薄い赤で塗られたようなそれは、白い歯が見えることで一段と輝きを増したようだった。

「もうすぐ着くよ」花が言う。
俺は花の肩に顔をくっつける。
ふっと甘い香りが鼻に付くようだった。
俺の頭の中で、花の顔がいくつにも重なって現れてくる。

最初は無愛想に、だんだん打ち解けてきて、微笑しながら首をかしげた花。
俺の寝癖を見て、口元を覆いながら笑った花。
少し憂いているような横顔。そういう時、花の?茲は雪のように白くなる。
俺の額に片手を置いた花。
そのあと花は自分の額を俺の額にくっつけてきたっけ。

顔がぼっと赤くなるのがわかった。
これがどういう感情なのか、説明しようとすれば出来たはずだ。今からでも、一文字で、完成する。
しかしそれは完成させてはいけない気がして、黙っている。

「…おーい桃太郎?」
ハッとした。
花の肩に顔を埋めたままずっと目を閉じていたらしい。
目の前には微笑む花とーー
「すっごい…」
高い所から一望すると自分のいる町も美しい。
草の緑との組み合わせもバッチリだ。


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