上 下
61 / 88

2-1

しおりを挟む
俺はグンと体がどこからか落ちたようになってそして本当に森の中にいるようだった。
「?」
胡蝶がこっちを見ている。

「…何が…?」
「帰ってきたのですよ」
「え」
「ここはあなたが桃になる前の天衣神社です」

俺は辺りを見渡した。
眩しいくらいの日が溢れている。
だんだんと記憶が戻ってきた。

「あれから、どれくらいの時が経ったんだ?」俺は聞いた。
「その事ですが…あの時からここに戻るまでは一秒もかかってないのです」
「!じゃあ今は…」
「あの時と同じ日付です」

俺は信じられなくてただ頭を横に振っていた。
胡蝶は続けて言う。「あなたが来てくれて大変に助かりました。鬼を退治しないといけないということでみんなホトホト困り果てていたところだったのです」
「なんで俺だったんだ」
「あなたがそんな時にここに来たからですよ」
「そんな事してここになんの利益があるんだ」
「報酬が入ります。するとここが豊かになります。今回の報酬は、かなりのものです。まずあなたは私を目視できるようになった」

「え、普通は見えないのか?」
「当然私はずっとここにいるのですが、いつも皆さん気づかなくてですね、へへへ」
「他に報酬は?」
「えー、私の力、そしてあなたの力も強まったと思います」

俺は考えた。それは報酬としてもらうものではない。自分で身につけてるんじゃないか。
「それは…報酬というより自分が勝ち取ったものなんじゃない?」
「まあ、そういうことです」
「なーんだ」

胡蝶が咳払いをする。
「えーつきましては、あなたがまたここで転送されてくれるのを望むわけです」
「転送…って桃の中へ移動する、みたいな?」
「そーです」
「いやです」

俺は帰ろうと体を反転させた。
胡蝶は止めようともしない。
「まあ今日は初日ですからね。疲れても当然です。ごきげんよう。えと、来週の日曜日もまたここに来てください。来なかったら、私はあなたを噛み殺しに行きますから」
笑顔で言われるから反応に困る。
しかし本当のことだろうと思われたから、「分かった」と強く言って別れた。

スーッと風が抜ける。
俺に青空がのしかかってきて、土が突き上げてくるから、俺は全力で駆けていく。そうでもしないと、押し潰されてしまうような、贅沢な感覚を知った。
しおりを挟む

処理中です...