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「で、どうでした?一週間」
胡蝶が嬉しそうに言う。戻ってきたのだ。
「短かったよ」俺は言った。
帰った時、本当にあの日から一日もずれてなくて変な感じだった。
何年ぶんの経験を一瞬に流し込んだのだろうか。

そこからの一週間は本当に早かった。
なんだか味気なくて、ここに来いと言われてなくても、やっぱり俺はここにいたと思う。
「今日は依頼人があなたを呼んでおります」
「へ?」
「あなたの桃太郎での活躍をご覧になっていたようです」
そういえば、視線を感じたな。

「そこで」胡蝶はピンと指を立てる。
「あなたは今からそこに行くのです」
「どんな所だ?」
「そんなこと聞いたら面白みが薄れるでしょう?」
「いいから」
「ダメです」

胡蝶はきっぱりそう言って目を細めた。
「またのご活躍、期待してますよ」
そして俺の頭を撫でる。
「待って!俺は桃太郎から帰ってから一週間経ってる。その時間はそこでいうとどれくらい…?」
「そこですか?決まってるでしょう。一瞬です」
「でも桃太郎の時間がここでいう一瞬だから、つまり今から行く所ではもーっと時間の進み方が遅いの?」

胡蝶は笑う。
「そんな単純な話ではありませんよ。でも難しく考える必要もありません。こう思えばいいわけです。空間を移動しても、元の空間は自分の中で固まったままだから、戻っても時間は進んでいない、と」

「どゆこと?」
「んー、やっぱ難しいですよね。分かりました。うー、あなたは全ての空間を内蔵してるんです」
「内蔵?」
「そうです。あなたは、そして他の人も例外なく、幾つもの、無限の空間をすでに体感しています。それに気がつかないと時間は進んでいるのだと感じます」
「え、進んでないの?」
「例えば一時二十六分三十七秒と、一時二十六分三十八秒とでは別の空間だということです」
「ああ、切り離して考えてるのね」
「まあ、そういう事です。確かに時間は進んでいるようですが、それは空間自体が移動しているので、本当はそうではないと考えられるわけです」

「むっつかしいなあ」
「その『以前の』空間への戻り方はみんな忘れてしまうものです。だから私達は特別視される…」
俺は胡蝶の涼しい横顔を見た。
「…まっそんな事はいいんですけどね」そう言って笑った。
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