『観察眼』は便利 カズヤの過去

Nick Robertson

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思わず手で顔を覆ってしまうくらいの赤づくしの空間。
そこにいたのは、白い長い髭を生やしたオジーチャンだった。

「…はっはっは。ずいぶん慣れてはきたが、ここの空間は目に悪いなぁ。お主達もそう思うじゃろうが」
「誰だよ、あんた」

真斗が細い目をして言う。

「わしか。…わしはな、まぁ、案内人ってところじゃろうか」
「案内人?」
「そうじゃ」

オジーチャンは、その髭をちょっと引っ張っていじくった。

「どこに案内すんだ?トマトと梅干のテーマパークとかだったらぶん殴るぞ」
「はっは。そんなわけなかろう。楽しーい世界じゃよ。地球じゃないところなのじゃ」
「………」

真斗はまた目を伏せた。
俺もそろそろ限界だ。どぎつい色だし、しかもなぜかこの空間には影が存在してないらしく、どこまでも広い感じがする。圧倒されるっつーか、自分が薄っぺらくなった気分だ。

「それでじゃな……」
「おい、もういいでしょ。早くそこへ案内してよ」
この声は、佐賀だな。もうそろそろブチギレるぞ、あいつ。

そうなったら静かに観戦しよう。センコーにも物怖じせずに向かって行くその姿から、特攻隊長って呼ばれてるくらいの実力者だから、オジーチャンなんて瞬殺だろうな。センコーはセンコーで、あいつが女子だからってんで迂闊に反撃できないんだろうけど。

「ふむ。じゃが、焦りは禁物じゃぞ。ちゃーんとわしが説明して……」
「うっせ!この宇宙人め!!」
「宇宙人とは違う。案内人なのじゃ」
「案内の仕方が乱暴だよねー」

口々に批判の声が上がる。
オジーチャンは、しばらく沈黙して、その声が収まるのを待った。

「………じゃからな、その世界に行く目的っちゅうのを…」
「どーでもいいからこの真っ赤なのどうにかしろ!吐きそう!!」

拓也がそう叫ぶと、その近くで、誰かがワザと吐いた音を出した。

「それじゃあわしの話を静かに聞くことじゃなぁ」
「冗談じゃねぇ!ってか、どーしてこんな赤ーくしてんだよ!バカなのかお前!!」
「それゃあ、お主達が取り乱すのを楽しむために決まっとるじゃろうが。赤色は興奮色なんじゃ」
「こいつ!!!」

俺はもう地べたにへたり込んで寝息を立てていたが、他の皆さんは勇んで年寄り一人に突っかかっていった。

「こりゃ、待て待て待て!……おっ、おっ、おっ。あぶ、危ないの。本気で蹴ろうとするな」
「大丈夫、腹だから」
「年寄りはどこを蹴られても致命傷になるんじゃっ!!」
「嘘こけやぃ。じゃあそれを証明して見せろってんだ」
「ギャーーー」

俺はそのやり取りを聞いて、面白そうだったから目を半分くらい開けた。すると、オジーチャンはビックリするくらい速く逃げ回っている。

「くそっ!おい、テメェあっちから回り込め!俺はこっちから行く!」
「オッケ!!」
「た、多勢に無勢とは!年寄りにやるべき作戦じゃなわわわわわわわ!!!」

誰かがオジーチャンの足を狙って蹴り飛ばした。
しかしオジーチャンは、バック宙してそれを躱す。

「…あっ!あいつ今カッコつけやがったぞ!キショいんだよ!おい、紀田!!お前もやったれ!!」
「よっしゃああああ!!!」

ブレイクダンスをやっていると言う紀田がオジーチャンの前でロンダート、バク転、バク宙を決める。

「へっ!どうだ!ウチの紀田は!!」
「いつからお前の紀田になったんだ?俺は……」

紀田は呆れ顔になるが、その間もオジーチャンはみんなから逃げ回っていた。

「おっ、お主達!わしを見くびるでないぞ!とぉっ!!!」
「何ぃぃぃ!」

目にも止まらないスピードで空中を飛び回ったオジーチャン。
唖然とする俺らに向かって、彼は、「空中でマカコを23回すればこんなもんじゃろ」と言うのだった。

---
「空中でマカコって……、それもうマカコじゃないだろ」
「俺もそう思った」
カズヤはその時のことを思い出しているのか、苦笑いした。「…でも、まっ、紀田よりヤベェってことは分かったかな」
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