裁縫の御所

Nick Robertson

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モワアというふうに出てきたのは、本物のタチです。
「わ!タチ!」
私は駆け寄りました。
タチは優しく私の頭を撫でます。
そして「ゴメンよ。色々あったから」と言いました。
私はウンウンと頷きました。
「それにしてもやらかしてくれたもんだな」
タチは偽タチの方を向きます。
「なんだよお、見てくんな、バーカ」
「ふーん、元気がいいもんだなあ、お前は」
私は驚きます。
「え、タチあの人のこと知ってんの?」
「あー、あいつだけは俺が創ったんじゃない。この世界を統治するものだ。征服でも占領でもなく、この世界そのものだ。集合体なんだよ」
「へえ」
「あいつは俺の世界になんでも細工を施せる。栗の木だって、きっとそうだ」
「ふーん…じゃあ、裂け目を作ったのは!」
「あいつだろ」
タチは平然とそう言います。
なんてこった、じゃあ偽タチを説得してれば全て解決してたのか。
「へへへーんだ。見くびんなよ。すごいだろー?」
偽タチがはしゃいでいます。
すると私が変な顔をしている事に気がついたのでしょう、猫の一匹が偽タチにかじりついて振り回します。
「あわわわ!なんと!ボスに向かってそんな行動するとは!フギャーオ、まあいいけど!楽しめたもんね!」
偽タチは挙げ句に吹っ飛ばされました。
そのまま空間に溶け込むように消えます。
「あ…」
「うん、あいつはいつもはああなんだよ。今回は特別俺の姿をして出てきてただけだから」
「ああ…」
タチはそう言うと私の体をつかんで少し揺さぶりました。
「良くやったものだね。あいつを満足させたらしいじゃないか」
「あ、うん、そうだね…」
「じゃあ、もう行くかな?」
「え…」
「何も言わないで」
タチは私の手を引いてグイと歩きました。
私もこけそうになりながら進みます。
猫は顔を舐めているのが確認でき、ピカッと額の粒は光りました。
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