裁縫の御所

Nick Robertson

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3あ

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起きると月が出ていました。
こんなに時間が経つものかなと思い横を見るとタチがいません。
私は全身の毛がよだつ思いがしました。
急いで立ちましたがそれらしい影はありません。
こんな広い草原なんだから大抵のものは見えるはずなのに。
夜の暗がりではありましたが月はしんしんと灯りを漏らしているというのに。
とうとう私はタチー!と叫びました。
しかし返事はありません。
遠くへ、遠くへ私を置いていってしまったのか。
私は泣きじゃくりながら走りに走りました。
走り続けるうち朝になって太陽が上がってきました。
それでも私は足をゆるめませんでした。
依然としてタチはいません。
「タチ、タチ!タチ!」 
私は一直線にかけていきます。
私は置いて行かれたのだ。
今までで一番信頼していたタチに裏切られたのだ。
私はその思いを忘れようとブンブン頭を振りながら走りましたが涙が飛ぶだけで裏切りの思いはゴムのように絡みついてきます。
(私はもう諦めた。自分で出口を探すのだ。
見つけてタチを蔑んでやる。
ざまあみろと叫んでやる。
今はただ一心に走るばかりだ。)
そうしていると、向こうの方に木が見えました。
やった。草原から抜け出せるぞ。
私はそう感じてもっと速く足がちぎれんばかりに走りました。
りんごの木でした。
私はむしゃぶりついて一気に3つ食べてお腹をおさめました。
そうして顔を上げるとりんごの木がたくさんある中で一つだけ栗の木があります。
私は自分の奥で確かにドクンという音を聞きました。
体が冷たくなっていきます。
そうだ、これが始まりだったのです。
私は四つ目のりんごを地面に落としてブルブル震えながらやっと後ろを向いて走り出しました。
けれどもけれども栗の木は頭に焼きついて今にでもそこにあるような気がしてますますぞっとしました。
私はもうタチのことより自分のことを案じたほうが良いと悟って走っていきます。
隣で風がひゅうと怒鳴る。
私は何も答えずにひたすら走る。
足の感覚はもうなくなっていました。
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