裁縫の御所

Nick Robertson

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4あ

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私はやがて海に出ました。
海の向こうはふつりと切れていて何があるやらわかりません。
私は希望を託して泳ごうとしました。
しかし水に入った途端体は吸い込まれました。
下には大きな渦が待ち構えていたのである!
私はもがきました。 
このままでは体がバラバラになって死んでしまう!
しかしその努力もむなしく荒い渦はせせら笑うように引き込みました。
私はとうとう目を閉じました。

どれくらい経ったでしょう。
私が体を起こすとそこは真っ暗でした。
私は自分が水の中にいることを知って驚きました。
息をしているのです。
何故でしょう。
そうするといきなり腕を握られてひいっと小さく叫んでそちらを見ました。
灯りを持ったタチが笑っています。
私は口をゆがめてタチに抱きつこうとしました。
しかしその手はくうを切り私は何かにつまづいてこけてしまいました。
それを見つめるとだんだん光ってきました。
「タチ…」私がつぶやくと光に囲まれて神々しくなったタチがこちらを向きます。
「タチー!」と叫んで今度はとうとうタチに抱きつきました。
タチは大人のようになって微笑んでいます。
私と別になってしまったようで、それが嫌で私は怒りをぶちまけました。
それからは長い間タチは私の愚痴を聞いていました。
「なんでいなかったのよ!」と言っても静かに微笑を浮かべているだけでした。
私はなんだかタチの偶像に話しかけているようで馬鹿らしくなって今度は笑いました。
タチは私が落ち着くまで瞬きひとつしませんでした。
結局、タチは弁解もしなければ謝りもしませんでした。
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