裁縫の御所

Nick Robertson

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13あ

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次に走って出たのは大きな泉です。
いや、泉に行こうとしたのではありません。
河原で風が起こっているようだったのでそこに向かっていると渦が巻いていたのです。
なんなんだ、あれは。
猫はもうプルプル震えている。
この猫たちは水が嫌いなんだそうだ。
私はふーんといって降りました。
つまり、私一人で原因を探れということか。
私もこんな渦の巻いた泉普通なら放っておくさ。
しかし私は以前泉にタチと行ったことがどうしても忘れられなかったのです。
理由ならどうでもいい。
ただの流れが岩にぶつかってクルクルなったというだけでもいい。
それでも行くのだ。
私は静かに潜ります。
それより静かに猫たちが見ています。
私は岩につかまりながら下へ潜っていきました。
初めはなんともなかったのです。
少し塩辛いと思っただけです。
しかしだんだん息が苦しくなってきました。
しかし渦はまだまだ向こうです。
私は浮こうと思って岩から両手を離してしまいました。
するともう私は渦の中で両手両足をものすごい力で捻じ曲げられているようになりああと言ってまた情けなく気絶してしまいました。
しかし私は起きました。
このままだと死ぬ。
しかし私にはみるみる力が宿るようだったので息を止めたまま歩きました。
泉の底は何も見えないほどもが絡まっていましたが私が近づくとさあっとたちどころに退きました。
パッと光が差し込みます。
猫は顔を見合わせるのまで見えるようでした。
底には大岩かと思うほどのアンコウが荒く息をしていました。
アンコウが息を吐くごとに渦ができるのでした。
私はまじまじとアンコウを見つめました。
ヘドロの腐ったような茶色の色をしたアンコウはそのもう白くなりかけた、どす黒さの混じる濁った茶色の目をけれどもほんの少しだけ動かしました。
エラはもうとっくに詰まっています。
歯なしの口はどこまでも暗い。
ヒレなどはとっくにもげているようです。
死にかかっている。
私はゆっくり近づきました。
アンコウはただ成り行きに任せています。
私の肩からは鷲の時の血がゆらゆら水に揺れています。
私はとうとうアンコウの額に手を乗せました。
ゆっくり、ゆっくりアンコウの目に本来の色が戻ってきます。
私は膝をついて正座の格好で手を当てたまま動きませんでした。
やがてアンコウは渦を止めました。
本当に、本当に満足そうに水の中を走りました。
光は水の中でしゃあしゃあと煌めいています。
しばらくすると、アンコウはそのまま動かなくなって土のようなヘドロのようなものになって粉々に落ちてきました。
ふわふわと舞いながら。
私は外に出ます。
猫が寄ってきます。
猫は私の傷口をひとしきり舐めた後で、「どうしてアンコウは消えたの?」と聞きました。
私は「あのアンコウは死期をとうに過ぎていたんだ。なんとか生きようとしていたんだ。体は、本当はあのように朽ち果てていたのに、あんなに、あんなに無理をしたんだ。」と言いました。
「じゃあ姉さんが殺したの?」
「姉さん?ああ、私。そうだねえ、そうかもしれない。」
そう言ってまた猫にまたがりました。
猫はすこおし考えてからまた進みだしました。
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