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調理器具の発注
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ベッカー商会の主、デニス・ベッカーが目の前に座っている。
モルゲンロート王国の各地に拠点を持ち、流通のために海運業まで営んでいる。
年齢は40代位で、焦げ茶色の髪をオールバックに整え、人の良さそうな笑みを浮かべている。だが、目には商人特有の抜け目のない光が宿っていた。
「奥様、いつも我が商会をご贔屓いただきましてありがとうございます。本日は、特注の品をお作りするということで承っておりますが、どのようなものをご所望でしょうか?」
「ええ、オーブンを作りたいの」
「オーブン、でござますか?」
ドレスや装飾品の注文だと思っていたベッカーは、驚きに目を見張る。
「これを見てください」
用意していたオーブンの画をベッカーの前に置くと、すぐにハッと我に返って画に目を向けた。
「これは、、、勿論すぐにお作りいたしますが、出来ればご説明を頂けるとより良いものがお作りできると思われるのですが」
ベッカーが恐る恐る詳細を尋ねてくる。
うん、ヒステリック女に「畏まりました」以外の言葉は厳禁だもんね。
ホントにごめんなさい。
でも、この人はアマーリエを上手いこと持ち上げていたから、怒鳴り散らされることも少なかった。
「ええ、画に書いてある説明書きの通り、横に棒を一本渡して、この棒をスライドできるようにして欲しいの」
「なるほど、、下のトレーに生地を入れ、奥のオーブンで焼いては生地を付けるを繰り返し、層状に焼かれたいと、、、」
ベッカーが画と説明書きを見ながら、独り言のようにブツブツと呟いている。
「奥様、慎重を期すために一度図面を作成した後、ご覧いただきたいのですがよろしいでしょうか?その際、手直しする点などあれば、ご教授いただければと存じます」
うん、完成してから、難癖つけられたらたまらないもんね。
アマーリエ言いそうだし。
「分かりました、よろしくお願いしますね。それから、もう何点か作っていただきたいものがあるのですが」
今度は、調理器具の画を出す。
先ずは、計量スプーンと計量カップだ。
「ほう、調味料などを計る、と書かれていますね、、、」
そう!ミルクレープの材料を計る時、すっごく面倒くさかったのだ。
少しずつ入れてもらって、光ったらストップをかける。
面倒くさい!!
この計量器具で一度計っておけば、次からは決まった分量を入れればいい、というわけだ。
「ええ、後、これとこれとこれもお願いします」
泡立て器、ボール、焼菓子やケーキの型等、いろいろな器具の画を差し出す。
「はあ、、、」
ベッカーは戸惑ったような声をこぼした。
「この計量器具があれば、目分量ではない完璧な料理のレシピが作れます。後の器具もお菓子作りは欠かせませんわ」
「なるほど、これは、、奥様!これは素晴らしい!これらがあれば料理界の歴史が変わります!各料理の基本レシピを作成し広まれば、料理人ごと、いや、各家庭に一つはこの計量器具が必要となります。売れます!これは、売れますぞ!!」
目をギラギラさせて、ベッカーが興奮した声を上げる。
いや、売りたいわけじゃないんですけどね?
ヴィアベルに美味しいお菓子が作れれば問題ないのですが、、まあ、各家庭で料理が作りやすくなれば、それもいいと思いますけど。
「奥様、商品が売れた際の奥様へのお支払いはどのようにさせていただきましょうか?」
なぜか、調理器具の作成依頼が、権利報酬の取り決めのようになっている。
「そうですね、私への支払いは必要ありませんので、製品の価格を庶民にも手が届くように設定していただけますか?」
「なるほど、薄利多売というわけですね。安価であれば、広まるのも早いでしょうし、モルゲンロート国中、いや、世界中の国々に広まることになるでしょうな。流石、奥様です!」
人をやり手の商人みたいにいうのは止めてもらえませんかね?
ベッカーの人の良さげだった笑みが、すっかり悪徳商人のようなどす黒い笑みに変わっている。
儲ける気満々ですね。
「すぐに同じようなものが作られるでしょうから、何かベッカー商会の刻印のようなものを付けたら如何かしら?」
「そうか!そうすれば、ブランドとしての価値が生まれるのですね、、、奥様!」
ベッカーの目が見開かれる。
それから、ひたすら褒めまくるベッカーにかなり閉口した。
取り敢えず、頼んだ調理器具とオーブンを早く作ってもらうようにお願いして帰ってもらった。
帰り際、売れた際の支払いはすると言って、断っても聞いてくれないので、頷いておいた。
ハァ、やっと帰った、、、。
いつも冷静沈着で大店の主っ感じなのに、完全にキャラが崩壊してましたね。
「ベルタ、厨房に戻りましょう。ミルクレープがもう冷えているはずなので、ヴィアベルに食べてもらう前に皆に味見をお願いしたいのだけれど」
背後に控えていたベルタを振り返る。
あれ?ベルタどこいった?
「奥様、どうぞ」
いつのまに!?
ワープ?ワープなの?
一瞬で扉口まで移動したベルタが客間の扉を開けて待ち構えていた。
「え、ええ」
甘いものの力は時空を超えさせるみたいです。
モルゲンロート王国の各地に拠点を持ち、流通のために海運業まで営んでいる。
年齢は40代位で、焦げ茶色の髪をオールバックに整え、人の良さそうな笑みを浮かべている。だが、目には商人特有の抜け目のない光が宿っていた。
「奥様、いつも我が商会をご贔屓いただきましてありがとうございます。本日は、特注の品をお作りするということで承っておりますが、どのようなものをご所望でしょうか?」
「ええ、オーブンを作りたいの」
「オーブン、でござますか?」
ドレスや装飾品の注文だと思っていたベッカーは、驚きに目を見張る。
「これを見てください」
用意していたオーブンの画をベッカーの前に置くと、すぐにハッと我に返って画に目を向けた。
「これは、、、勿論すぐにお作りいたしますが、出来ればご説明を頂けるとより良いものがお作りできると思われるのですが」
ベッカーが恐る恐る詳細を尋ねてくる。
うん、ヒステリック女に「畏まりました」以外の言葉は厳禁だもんね。
ホントにごめんなさい。
でも、この人はアマーリエを上手いこと持ち上げていたから、怒鳴り散らされることも少なかった。
「ええ、画に書いてある説明書きの通り、横に棒を一本渡して、この棒をスライドできるようにして欲しいの」
「なるほど、、下のトレーに生地を入れ、奥のオーブンで焼いては生地を付けるを繰り返し、層状に焼かれたいと、、、」
ベッカーが画と説明書きを見ながら、独り言のようにブツブツと呟いている。
「奥様、慎重を期すために一度図面を作成した後、ご覧いただきたいのですがよろしいでしょうか?その際、手直しする点などあれば、ご教授いただければと存じます」
うん、完成してから、難癖つけられたらたまらないもんね。
アマーリエ言いそうだし。
「分かりました、よろしくお願いしますね。それから、もう何点か作っていただきたいものがあるのですが」
今度は、調理器具の画を出す。
先ずは、計量スプーンと計量カップだ。
「ほう、調味料などを計る、と書かれていますね、、、」
そう!ミルクレープの材料を計る時、すっごく面倒くさかったのだ。
少しずつ入れてもらって、光ったらストップをかける。
面倒くさい!!
この計量器具で一度計っておけば、次からは決まった分量を入れればいい、というわけだ。
「ええ、後、これとこれとこれもお願いします」
泡立て器、ボール、焼菓子やケーキの型等、いろいろな器具の画を差し出す。
「はあ、、、」
ベッカーは戸惑ったような声をこぼした。
「この計量器具があれば、目分量ではない完璧な料理のレシピが作れます。後の器具もお菓子作りは欠かせませんわ」
「なるほど、これは、、奥様!これは素晴らしい!これらがあれば料理界の歴史が変わります!各料理の基本レシピを作成し広まれば、料理人ごと、いや、各家庭に一つはこの計量器具が必要となります。売れます!これは、売れますぞ!!」
目をギラギラさせて、ベッカーが興奮した声を上げる。
いや、売りたいわけじゃないんですけどね?
ヴィアベルに美味しいお菓子が作れれば問題ないのですが、、まあ、各家庭で料理が作りやすくなれば、それもいいと思いますけど。
「奥様、商品が売れた際の奥様へのお支払いはどのようにさせていただきましょうか?」
なぜか、調理器具の作成依頼が、権利報酬の取り決めのようになっている。
「そうですね、私への支払いは必要ありませんので、製品の価格を庶民にも手が届くように設定していただけますか?」
「なるほど、薄利多売というわけですね。安価であれば、広まるのも早いでしょうし、モルゲンロート国中、いや、世界中の国々に広まることになるでしょうな。流石、奥様です!」
人をやり手の商人みたいにいうのは止めてもらえませんかね?
ベッカーの人の良さげだった笑みが、すっかり悪徳商人のようなどす黒い笑みに変わっている。
儲ける気満々ですね。
「すぐに同じようなものが作られるでしょうから、何かベッカー商会の刻印のようなものを付けたら如何かしら?」
「そうか!そうすれば、ブランドとしての価値が生まれるのですね、、、奥様!」
ベッカーの目が見開かれる。
それから、ひたすら褒めまくるベッカーにかなり閉口した。
取り敢えず、頼んだ調理器具とオーブンを早く作ってもらうようにお願いして帰ってもらった。
帰り際、売れた際の支払いはすると言って、断っても聞いてくれないので、頷いておいた。
ハァ、やっと帰った、、、。
いつも冷静沈着で大店の主っ感じなのに、完全にキャラが崩壊してましたね。
「ベルタ、厨房に戻りましょう。ミルクレープがもう冷えているはずなので、ヴィアベルに食べてもらう前に皆に味見をお願いしたいのだけれど」
背後に控えていたベルタを振り返る。
あれ?ベルタどこいった?
「奥様、どうぞ」
いつのまに!?
ワープ?ワープなの?
一瞬で扉口まで移動したベルタが客間の扉を開けて待ち構えていた。
「え、ええ」
甘いものの力は時空を超えさせるみたいです。
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