我儘女に転生したよ

B.Branch

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誓います

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「奥様、旦那様がお出でになります」

ベルタは扉口の応対から戻ってくると、いつかの再現のような言葉を口にした。

「そう、では一階の居間にお通しして。お茶は、、どうしましょう?」

前回は一瞬で帰ったし、いらないかな?
茶葉の無駄?

「ご用意いたします」

当たり前でしょう!っと言いたたそうにベルタが答えた。
ですよね!ゴメンなさい。

階段を降りていると、玄関広間が騒がしくなる。

あ、来ちゃいましたね。
 先触さきぶれを出して直ぐにやって来たのだろう。
今回は何の用でしょうね?
などと考えつつも居間に入り、クリストハルト様を出迎えた。

「何を考えている?」

居間の椅子に向かい合って座ると、クリストハルト様が開口一番おっしゃった。

「え?」

「目覚めてからのことだ」

ん~、そうですね、私(アマーリエ)人格変わり過ぎですよね。
高熱を出して以降、ヒステリックな声を陽光館に響かせることもなく、社交の場に出掛けることもせず、静かにヴィアベルと暮らしている。
不自然極まりない。いや、不気味とさえ言えるかもしれない、、、

静かに暮らすだけで不審がられるって、泣けてきますね。
よし、ここはきちんと申し上げておかなければ!

クリストハルト様のヴィアベルと同じ深緑の瞳を見つめて、私は想いを口にした。

「ヴィアベルより大切なものなどないと気付いたのです」

これが全てだと思う。
アマーリエもこの事に気付けたら変わっていた、と思う。
アマーリエの心の奥底で暗くもやもやしていた孤独感や愛されたいという想いは、ヴィアベルを愛することで癒されたはずだ。
あの笑顔や幸せそうな様子を見れば、、、
「気付く」と「気付かない」で世界は一変する。

「そうか」

クリストハルト様が頷き、小声で「やっとか」と呟いた。

あれ?もしかしてクリストハルト様はアマーリエがヴィアベルを見つめていた事に気付いてらした?
全くの無関心ではなかったの?

「クリストハルト様、ヴィアベルの本館での様子をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、あの子は頭が良くとてもいい子だ」

どこか自慢気にクリストハルト様が仰った。

ですよね、知ってました!
何ですか、私よりヴィアベルのことを知っているとでも?
ヴィアベルあるある・・・・なら負けませんよ!、って喧嘩売ってどうするのか、、、

「もっと詳しく教えてくださいませ」

眉間に寄った皺を伸ばしながら、なんとか口元に笑顔を作る。

「ふむ、アルトゥールとは仲良くやっているな、アンネリースにも優しい。ああ、アンネリースにケーキを食べさせたそうだな。とても美味しかったとアルトゥールに自慢していた。侍女達にも食べさせただろう。本館中で噂が駆け巡っているぞ」

マジか、、、
チラッとベルタを見ると、コクリと頷かれた。
そうか、でも別に悪い噂じゃないしいいよね。

「あと、そうだな、ヴィアベルは笑顔が増えて幸せそうだ」

クリストハルト様の言葉にハッと顔を上げると、静かな瞳がこちらを見ていた。

「そう、ですか、、、」

「ああ」

込み上げそうになった涙に喉を詰まらせながらも言葉を絞り出すと、クリストハルト様が短い同意の言葉をくれた。

「ヴィアベルの勉学の様子などはベルタに伝えるので聞くといい。では、そろそろ私は失礼する」

クリストハルト様はそう言うと席を立ち、返事を返す間もなく居間を出て行った。

「お礼も言えなかったわ」

今日の訪問は教えるために来てくださったのかな?
ヴィアベルが幸せそうだと、そして、あの笑顔を再び曇らせるようなことになるなという忠告。

「ありがとうございます。誓いますわ」

高熱から目覚めた後、「どこにも行かないで」と言って抱きついてきたヴィアベルを思い出す。
もう、あんな風に不安にさせて泣かせるなんてことは絶対にしない。
あの子の笑顔は私が守るのだ。

「奥様、、、」

躊躇ためらいがちにベルタが声をかけてくる。

「申し訳ございません、ベッカー商会のあるじを先刻より客間にて待たせておりますが如何いかが致しましょう?」

あ、そうだった!クリストハルト様の来訪ですっかり失念していたが、今日、調理器具の試作品とオーブンの図面を持って来るって連絡があったんだった!
かなり待たせてしまったかな?

「そうでしたね、すぐに行きましょう」

幾分早足で移動し客間の中に入ると、デニス・ベッカーがソファーから立ち上がりお辞儀してにこやかな笑顔を見せた。

「待たせましたね」

「いえいえ、とんでも御座いません。手前どもこそご注文の品をご用意いたしますのにお時間を頂きまして申し訳ございません。ですが、ようやくご要望通りの品が出来上がりましたのでお持ちさせていただきました」

ベッカーはそう言うと、注文していた品々をテーブルに並べた。

「奥様の承認を頂ければ、この計量カップと計量スプーンはすぐにでも量産できる手はずを整えておりますのでお任せくださいませ!」

「そ、そう」

ベッカーが前のめり気味に力説してくる。

熱意があり過ぎてちょっと怖いですね。
しかし、その熱意の結果か、頼んでいた調理器具は指示通りに完璧に出来上がっていた。

お~可愛いクッキーの型も出来ていますね!
クッキーだけじゃなく野菜を可愛く型抜きすれば、苦手な野菜も美味しく食べられるようになるかもしれません。

「奥様、、もし宜しければお願いしたいことがございまして、、、」

ベッカーが言いにくそうに切り出してくる。

「なにかしら?」

「この泡立て器というものの使い方をお教えいただければと、、、この独特の形はどういう意図があるのでしょうか?」

そうか、なんて説明したらいいかな?
ん~、どうしよう、、、やっぱり見せた方が早いかも。

「今から厨房に移動して、使って見せましょう」

「え!?い、いえ、奥様にそこまでしていただくわけには、、、」

厨房に行き、しかも実演しようという私の申し出に、ベッカーは狼狽気味に驚いている。

うん、公爵家の奥様が厨房に行くとか普通ないよね。
ベルタも渋々だし(甘いものの誘惑に負けてますけど)、私が料理するのは止められますからね。

「実際に見た方が理解し易いわ。用途の分からないものは売れませんでしょう?」

「なるほど、そうでございますね!」

ベッカーが急に乗り気になる。
「売れない」という言葉に反応したようだ。
ベルタに甘いものをチラつかせるのと同じですね。

さあ、では実演会と参りましょうか!
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