14 / 41
14
しおりを挟む11年前…私達姉妹は家族と家を失った。
盗賊が村一帯を襲って、全てが炎に包まれたのだ。
「あなた達はここにいなさいっ!盗賊が居なくなるまで絶対にでちゃダメよ!」
母にそう言われ、姉と隠れたクローゼットの中。そこで震えながら父と母が殺される様をただ見ていることしかできなかった。そしてその盗賊は私たちの存在に気付いていて…ゆっくりと扉を開けたのだ。
「見ぃつけた」
そう、楽しそうに笑って。
お姉ちゃんは私を逃そうと腕を引いて勢いよく出るが、あまりの突然のことに私は躓いてしまう。そんな私は盗賊の格好の餌食だった。剣を突きつけられ、もうダメだと思った瞬間、盗賊と私の間にはお姉ちゃんがいて、剣はお姉ちゃんの胸に突き刺さっていた。
「お姉ちゃん…っ!!!」
「ぐっ、あ、妹に…っ、てを…出すなぁっ!!!」
いつ死んでしまってもおかしくないという状況だというのにお姉ちゃんは私を守ることを一番に考えて、お母さんの近くに落ちていた短剣で相手を深々と突き刺した。
だが、盗賊はもう一人いた。お姉ちゃんは短剣を握りなおすがとてもじゃないが動いていい状態じゃない。もうダメだと思った瞬間、盗賊の背後、脳天から真っ直ぐに剣が振りかぶられ、絶命した。そこに立っていたのはハーヴィル・ウルフェンデン。今のお姉ちゃんの旦那さんだった。
急ぎ彼は私とお姉ちゃんを担ぎ上げ、火や敵が少ないところへと駆けていく。途中顔に傷を負わされても走り続ける。だけど、彼は背中には傷など負ってない。
確かに彼は私にとってヒーローだったが、それ以上のヒーローがいたのだ。
「おい大丈夫か、嬢ちゃん」
彼と出会ったのはお姉ちゃんの治療中、一人教会の外で座って泣いている時だった。両親も亡くなり、唯一の姉も私を守って死にかけている。怖くて怖くてしょうがなかった。世界中になんで勇気ある姉ではなく弱虫のお前が生き残ったのかと後ろ指を刺されている錯覚に陥るほどに。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんが…」
「お姉ちゃん…?あの治療中の嬢ちゃんの…妹か?話は大体ハーヴィルから聞いたが…」
その男性は私に声をかけると横に座ってポンポンと私の頭を撫でた。
「変に色々背負うんじゃねぇよ…怖かっただろ。もう大丈夫だから」
誰だかも分からないその男性の声があまりにも優しくて、溜まっていたものが全て溢れ出した。
「私、何も出来なかった…私が、死ねば良かったのに…っ!!!!お姉ちゃんが死んじゃう…っ、私のせいだ、私の、私のせい…っ」
「馬鹿野郎、嬢ちゃんは何も悪くねぇよ。悪いのは全部あのクソ野郎共だろう…」
男性は私の涙や鼻水で服を汚れることも気にせずギュッと私を抱き締めた。土と石鹸の混じったような匂いが何故だかすごく落ち着いて私を肯定してくれる彼の存在が私の救いになった。
「泣いてもいい、俺が全部聞いてやるから…」
「ありがとう、ございます…おじさん」
「おい、俺はまだ25だぞ。ベイリー・ウッド、それが俺の名前だ」
不機嫌そうな声で答え、見上げた彼は顎に髭があって、13歳の私にとってはおじさんにしか見えなかったのだった。そこで私は事件の後初めて笑うことができた。
「おじさーん」
私はあれ以来毎日ベイリーさんに会いに行っていた。彼はまた来たなと言いつつ毎回優しく迎えてくれて私を妹のように可愛がってくれた。
「だからおじさんじゃねぇって…お。これ木苺のジャムか?うまそうじゃねぇの。」
「近くの森で実ってたから、共用のキッチン借りて作ってみたんです。いつも色々お話聞いてくれてありがとうございます」
「嬢ちゃん料理もできんのかい。いっつも姉ちゃんばっかり褒めてっけど嬢ちゃんもすげぇじゃねぇの」
瓶に詰めたジャムを手渡すとベイリーさんは笑顔で受け取ってくれた。
「お姉ちゃんの方が上手ですけどね」
「それでも、俺は嬢ちゃんが俺のために持ってきてくれたってのが嬉しいんだよ」
彼は私を妹のようにしか思っていないだろうが、私は一人の男性として好意を抱いていた。思春期によくある年上の男性をカッコいいと思うお年頃、では片付けられないほどに私は真剣に彼に恋をしていた。お姉ちゃんと比べて卑屈になりがちな私を温かい言葉で修正してくれる。太陽のような人間だと思っていたのだ。
「姉ちゃんは元気になったか?」
「はい、もう一人で座れるくらいには」
「そっか、そりゃ良かった。嬢ちゃんも看病頑張ってたもんな」
「そのおかげだといいんだけど…」
そうやっていつものように撫でてくる手の感触が好き、低くて優しい言葉を紡ぐ声が好き、笑うときに困ったように下がる眉が好き、実はたくましい体付きにドキドキしてしまう時がある。
夜ベッドに入る前に彼を思い出して、好きだと実感するのが幸せだった。幸せは、いつも私のせいで壊れると言うのに─
「昨日は取りきれなかったからな、今日も残ってるかな」
私は翌日再び木苺を取りに森へと訪れていた。危ない生き物も出ないし、となんの気無しに出歩いていただけだったのだ。
「あった、あの木だ…まだ実がなってて良かった。」
安心しきった私は真横から向かってくる剣の存在に気付かなかった。
「おい嬢ちゃん!!!!」
そんな声と共に私に向かってきたのは1匹の白い狼だった。真横からの剣は私を庇うように飛び込んできた狼は背中に斬撃を浴びた。いや、それは私から庇うために狼から姿の変わった人間、ベイリーさんだった。
「おじさんっ!!!!!」
「クソがっ!!!この子に手ぇだすんじゃねぇ!!!!てめぇ、その格好…この前の盗賊の残党だな」
襲ってきた男はベイリーさんの怒声に怖気付いて腰を抜かす。まさか私を狙ったのに男が出てくると思わなかったのだろう。
「お前、じゅ、獣人か…」
「だったらなんだっつーんだよ、このヤロウッ!!!!」
ベイリーさんの姿がまた狼の姿に変わり、悲鳴を上げる間もなく盗賊の首元に噛み付いて絶命させた。しかし、その直後ベイリーさんも力尽きて、その場に倒れ込んだ。私を命がけで守ってくれた私の大事な人、私の、ヒーロー。心も体も救ってくれた、記憶の奥底に封じられていた私の初恋。
じわじわと地面に血が滲んで頭の中がこの人が死んでしまうという恐怖でいっぱいになる。
「おい、泣く、んじゃねぇよ…大丈夫だから…」
「おじさん…っ!死なないでよぉっ!!」
「おじさんじゃ、ねぇって…なん、かい、いやぁわかんだよ、嬢ちゃん…ベイ、リー…って呼べって…」
それからの記憶はぼんやりとしている。近くにベイリーさんの仲間が通りかかり、私が狼の姿の彼を『おじさん』と呼んでいることに真っ青になった後慌てて村へとベイリーさんを抱え込んだ。その後彼とハーヴィルさんとの会話が聞こえて何故私たちを見てあんなにも慌てふためいていたのかを知った。獣人は神秘であり秘匿されるべきもの、つまりベイリーさんは私のために禁忌を犯したのだ。そして知られてしまったからには村人の自分たちに関わる記憶を全て消すしかない。全部、私のせいで───
立ち尽くすしかない私の存在は、会話を終えたばかりのハーヴィルさんにすぐ見つかり、記憶はそこで消された。
10
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる