かつて、裏切られ王都を追放された少年は、最強(自由)を求め理不尽に抗う

猫る歩き人

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Bランク冒険者アンド(マリク)

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 笛の音を聴き、俺は目を開けた。間髪入れずに2度、短い笛の音。これは、現在見張りの番をしているBランク冒険者パーティからの合図だ。



『緊急性はないが、支援を必要とする戦闘発生』



いかに森と言えど、ここは『魔法泉の森』だ。この辺りにはせいぜいBランク程度のモンスターしか出ないはずだし、群れる系統のモンスターもいないはずなのだが、どうしたのだろうか?



今回のクエストに参加した冒険者は、あのパーティと俺しかいない。残りは非戦闘要員だ。だから、この合図は俺に向けてのものに決まっている。



 目を擦りながら起き始める周りの人を尻目に、俺は馬車から降りた。最早、日も登り始めているようで、辺りは薄っすら明るかった。俺は、Bランク冒険者パーティが点けていた焚き火、馬車の列の前に向かって走っていった。



 彼らの下に駆け付けるが、まだ戦いは始まっておらず、全員が武器を構え、暗い森に体を向けていた。



 その理由は俺にも分かっていた。かなりの量……おそらく20~30体のモンスターの気配が感じ取れる。仮に全部最弱のCランクモンスターだとしても、4人しかいない普通のBランク冒険者パーティには少しきついだろう。



「加勢する。こっちにスキル掛け直そうか?」



俺は、彼らの横に進み拳を構えた。武器も持ってはいるが、このファイトスタイルの方が乱戦には向いている。



すると、パーティの中央、最前列にいるリーダー格の男———短髪で無精ひげを生やした細身だが筋肉質———確か、名前は…クレイク、だったな———が、



「いや、大丈夫だ。アンド、あんたのスキルは、引き続き運搬役に掛けておいてくれ」



 スキルというのは、人が、基本的に1人1つずつ持っている特殊な能力のことである。様々な種類があり、魔法とも違う不思議な力とされている。



 俺のスキルは、『支援』だ。スキル『支援』は対象を強化できる。現在は、今回のクエストである『魔法泉の水の大量採取』のための運搬役の人達が持つスキル『アイテムボックス』を強化することで輸送量を増やしている。そのため、輸送中の今、彼らのスキル強化をやめれば、大量の魔法泉の水が零れ落ちることとなる。



 そして、スキル『支援』は、同時強化や、強化の維持は簡単だが、複数の強化———例えば、Aさんを強化した後、Bさんを強化…や、Aさんのスキルを強化し、Bさんの身体を強化…など———は、基本的に無理だとされている。そのため、ここでスキル『支援』を掛け直すことは、クエストの進行において重大な損失に直結する。だが———、



「それとな、アンド。あんたはここじゃなくて最後尾の馬車辺りを守ってほしい」



「…何故だ?」



 最後尾の馬車といえば、さっきまで自分が居た場所だ。特段、モンスターの気配もなかったが。



 クレイクは、左後方で弓を構えている気弱そうな男を、親指で指差しながら、



「こいつ、うちのパーティの斥候で、フックって言うんだが、こいつのスキルが『気配感知』ってやつでな。かなり遠くのモンスターの強さもランクまで詳しく分かるんだが………」



 重ねるようにフックが言葉を続けた。



「うん。大体は分かるよ。Cランクのゴブリンが22体。Bランクのオークが3体。だけど………」



フックは一旦言葉を区切り、



「感じたことのない強さの気配があったんだ。しかも、気配も消えたり出たり………こんな奴、初めてだよ。奥に居たっぽいけど正確な位置も分からない。それに、Bランクまでなら大体狩ったことあるから…もしかしたらAランクかもしれない」



「そういうことだ。いつ来るか分からない謎のモンスターがいる。だから、気配が無い後ろも守らなきゃいけないって訳だ」



 クレイクの話は理解できる。しかし……



「なるほど。だが、俺もここで戦った方が良くないか?言い方は悪いが、この量のモンスターだけでも厳しいと思うが」



 そもそもBランク冒険者パーティというのは、『Bランクモンスターまでなら倒せるパーティ』という階級だ。強さは、パーティによってまちまちではあるが、このパーティがBランク冒険者パーティの中で強い部類だとしても、Aランクモンスターに勝てる確率は少ない。特別な事情でもない限り、勝つのは難しいだろう。



 それは、Bランク冒険者である俺も同様である。



 それならば、後ろに回られる可能性を捨て、俺もここに残って共に戦った方が間違いなく勝ちの目があるだろう。



「それは問題ない。俺達もいわゆる『訳あり』ってやつでな。Aランクモンスターくらいまでならなんとかなるのさ。分かったらさっさと行ってくれ。あんたにしか任せられない。もう喋ってる暇はなさそうだ」



 その言葉に、俺は少し目を見開く。



「……分かった。ここは頼む」



 俺は構えを解き、馬車の最後尾に向けて、踵を返し走り出した。



 クレイクが言った『訳あり』とは、実力と冒険者ランクの差のことだろう。冒険者ランクを上げないことにメリットはほとんどない。しかし、中には、実力があっても冒険者ギルドからランクアップの許可が下りない者や、敢えてランクを上げない者もいる。



 俺もその中の1人だ。



 クレイクは、「俺達『も』訳あり」と言った。彼は、俺のことを知っていたんだろう。



「全く…気が抜けないな」



 走りながら、俺は少しため息を漏らした。



—————————



 アンドの足音が聞こえなくなってから、フックは聞いた。



「さっきの人は有名なの?クレイクさん」



「あー、冒険者ギルドの職員の間では割と話題な奴だな。ここの支部の話だが、何でも、クエストを受けずに討伐したモンスターの数が個人で1番多いんだと。その中にはAランクモンスターもあったらしい。でも、それ以上に………」



「それ以上に?」



「四六時中戦ってるって噂がある。余りの量に疑問を持った職員が跡をつけてみたら、少なくとも7日7晩は戦いっぱなしだったそうだ。だから、職員の間で奴は———



——————『戦闘狂』って呼ばれてる」
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